第三章:『贈られ贈るクリスマスプレゼント』

「ふ〜……ようやく着いた……」

「そうね……久し振りにここに来たとは言え、まさか……こんなにも声をかけられるなんて……」

 僕とベルンは少し疲れながらも霞さんが手配してくれたこの里の中で多分、最も歴史がある土壁を模した石膏で綺麗に整えられた外壁と多少の苔を生やすことで情緒を感じさせる石垣、出入り口に水によってカコンと良い竹の音を響かせる獅子威しや砂利が敷き詰められた地面と笹が存在する旅館『盛隈庵(せいえあん)』の前にようやく到着した
 なぜ僕らが疲れているのかと言うと、ルリ達と別れた後に盛隈庵に向かう道中、この里の創設者の一人であるベルンが久しぶりに来たことに里の住人が歓喜して、出会う度に全員が挨拶をしてきて、かなりの足止めを喰ったのだ

 まあ、それはベルンがそれだけ慕われていることなんだよね

 ベルンに声をかけてきた住人の顔には見ているだけでこちらも幸せになる平穏な日常を楽しんでいる幸福感に満ちた笑顔であった
 この里はベルン達が彼女達のいた世界が未だに誤解が原因で魔物と人間が争い続けており、それが原因で起きる僅かながらの悲劇からも逃れたい願った者達のための創られた『理想郷』だ。魔物は決して、人を殺そうとしないし、彼女達の生命力も高いから人間との戦いで死人は出ることも希だけど、やはり争いがあれば、人間の手で魔物の血も流れるし、生命が失われる時もある。特にそれは幼い魔物娘なら尚更だ。とある勇者だったデュラハンはかつて、魔物によって占拠されて魔界化する途中であった村を任務で焼き払い、さらには魔物化していた村人を殺したことがあると悔やんでいることがあったとベルンから聞かされたこともある。また、この里には僕の様な里の外の世界に住んでいた住人も多くいる。ここは僕の様に外の世界での居場所を失った人間の安住の地でもあるのだ
 だから、この里にいる人々は皆、居場所があり、大切な者を失わないですむことに喜びと平穏と幸せを感じているのだ。ベルン達のしてきたことは決して無駄ではなく、多くの人々を幸福にしてきたのだ。僕はこの『理想郷』を創設し人々を幸せにしてきた妻のことを誇りに思い、その妻を支える日常に満足感を覚えている

「ようやく来ましたわね。ベルン、優様?」

僕達が盛隈庵の前で立っているとおっとりとしただけなのに他人を堕落させるような声が聞こえたので僕達が振り向いた
 すると、そこには赤い長袖の漢服を着た相手を相手を誘惑する妖艶な光を放つ目とベルンに負けないぐらい綺麗な長い生糸のような金髪とフサフサとした狐耳と同じような毛並みを持つ八つの尾を生やしたベルンと同じ年頃の女性がいた

「お久しぶりです。霞さん」

「遅れて、ごめんなさい。霞」

「気にしておりませんわ。お二人とも」

 このおっとりとしながらもどこか怪しい蠱惑的な魅力を放っている妖狐こそがこの『霧幻郷』の長にして、ベルンの幼馴染の1人である霞さんだ

「あら?ルリちゃんは?」

 今日、家族と一緒にこの里で過ごすと聞かされていた霞さんはルリがいないことを不思議に感じて首を傾げながら訊いてきた

「実はここに来るまでに間にオネットやヴェンに会ってね……」

「なるほど、そう言うことですか」

 ベルンがルリがこの場にいない理由を手短に遠回しに語ると霞さんは幼馴染の僅かな説明だけで理解してニコニコと微笑み

「あの子は本当に元気がよくて友達が大好きですものね」

 ルリのことを嬉しそうに話した
 この里の創設者であるベルンやその幼馴染である霞さん達の中で唯一、子供を授かっているのはベルンだけだ。そのため、霞さんやオネットさん達はルリのことをまるで自分の娘の様に可愛がってくれている
 ルリが生まれた時も全員揃って、生まれたばかりのルリの誕生を祝福しに来てくれたのは懐かしい記憶だ

「さて、立ち話もなんなので早く旅館に入りましょう」

「あ、はい」

「そうね」

 僕とベルンは霞さんに言われるがままに今日から泊まることになる盛隈庵の敷居を跨いだ
 すると

「わざわざ足をお運びになられてありがとうございます。優様、ベルン様」

 桃色の着物を着た頭にモコモコとした羊毛と羊の角を生やした子の旅館の若旦那の妻で若女将であるワーシープが出迎えてくれた

「セレスさん、こんにちわ。今日からお世話になります」

「あら、セレス。随分と女将姿が様になってきているわね」

 僕とベルンは丁寧に出迎えてくれたセレスさんに挨拶を返した

「本当ですか!えへへ……」

 ベルンから自分の女将としての接客態度を褒められたセレスさんは嬉しさのあまり、顔をニヤニヤと歪めてしまった

「こらこら、セレスちゃん。接客中にそう言う態度にはダメよ?」

 セレスさんが顔をニヤニヤさせていると宿の奥から落ち着
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