第二章『霧の向こうの理想郷』

「わ〜い、『霧幻郷』だ〜♪」

「ちょっと、ルリ!ちゃんとステラにお礼を言いなさい!」

「あはは……すいません、ステラさん……お忙しい中……」

 僕達、家族はルリのお願いで人里離れた山奥にある人と魔が共存する霧に包まれた隠された『理想郷』である『霧幻郷』にダークエンジェルのステラさんの転移魔法で送ってもらった

「いえいえ、このぐらいは大丈夫ですよ。優さん」

 ステラさんは僕が申し訳なさそうに言うと、気にもせず気さくにそう言った。実はこの時期は堕落の使徒である彼女は多くの女性やそのカップル達を堕落させるのに忙しいのだ。しかし、ステラさんはそんな中、わざわざ時間を作って僕達一家をここまで運んでくれたのだ

「ステラお姉ちゃん、ありがとう!」

「ふふふ……どういたしまして」

 ルリは最初は『霧幻郷』に着いたことに興奮してはしゃいでいてお礼を言うのを忘れていたが母であるベルンに言われたこともあり、ステラさんに本心から屈託のない笑顔と共に感謝の言葉を告げた
 それを見てステラさんはいつも親友のダークプリーストに対してイタズラをする時のニヤニヤした笑顔ではなく、その幼い少女の外見とは対照的な年下の子供を見守る年長者の微笑みを浮かべた
 そう言えば、ステラさんよく自分より年下の魔物娘やその伴侶達に『ステラ姉さん』と呼ばれている。どうやら、彼女はみんなのお姉さんポジションらしい

「ステラ、ありがとうね。アミによろしく」

「はい。じゃあ、よいクリスマスを」

「じゃあね、ステラお姉ちゃん!」

 ベルンは自らの幼馴染であるリリムへの言伝を頼み、ステラさんはそれを受け取ると転移魔法を使って自らの住む街へと帰って行った

「さて、霞(シア)の待つ旅館へ行くわよ」

「は〜い♪」

 ステラさんが去るとベルンは娘の手を握りこの里の長にして八尾の妖狐、霞さんが手配してくれた僕達がこの3日間泊まることになる旅館へと向かった
 そして、しばらく歩いていくと里の入り口に並んでいる木できた柵が見えてきて、唯一柵が存在しない個所にはこの里の自警団でもある2人の魔物娘の姿が見えてきた。
 しばらくすると1人が僕らに気がついたらしく見張りの1人である虎をどこか彷彿させる鍛えられた肉体を持つ獣人、人虎さんが駆け寄ってきた

「これはベルン殿、よくぞ来られました」

「あら、風(ふう)。久しぶりね」

「優殿も、ルリもお久しぶりです」

「風さん、久しぶりですね」

「風お姉ちゃん、久しぶり!」

 駆け寄ってきた人虎は自分の主の幼馴染のベルンとその家族である僕とルリの姿も見て挨拶をし、僕達もそれに応じた
 彼女の名前は風。ベルンの幼馴染である霞さんに幼い頃から仕えている人虎だ。元々、ベルンと霞さん互いの共通の幼馴染であるアミさんとは違う時期に出会っているが両者とも両親が後学のためにと幼かったアミさんの遊び相手として魔王城に留学したのが出会いのきっかけらしい。その際の護衛として霧の大陸にいた頃から使えていた魔物娘の1人が風さんだ

「お、ベルンさんじゃん。久しぶり♪」

 と厳格さを感じさせる風さんとは対照的な少し軽い調子の声が聞こえてきた

「あら、リサ?久しぶりね」

 礼儀に対してうるさいベルンは明らかに己に対する礼儀を欠いているように語りかけてきたサラマンダーのリサさんにに対して何事もなかったように接した

「へへへ……優さんにルリちゃんも久しぶり♪」

 ベルンに言葉使いのことで何も言われなかったリサさんはそのまま僕とルリに対してもその態度を崩さず挨拶してきた

「あはは……久しぶりですね、リサさん」

「む〜……」

 その様子を見たルリは少しふてくされてから

「ママ、ズルい!リサお姉ちゃんには怒らないでルリには怒ってばっかし!」

 ルリはいつも言葉使いや礼儀のことで母親であるベルンに叱られているのにベルンが子どもでも分かるぐらい言葉使いが悪いリサさんのことをベルンが叱らないことに理不尽を覚えて顔をムッと顰めらせて抗議して、その後にリスが頬に木の実を頬ばせる様なふくれっ面になりへそを曲げた

「あらあら……ごめんなさいね、ルリ」

 その娘の抗議を我が身に向けられながらもベルンは娘と同じルビーのような紅い眼を細めながら娘のその愛らしい姿を見守りつつ自分の非を詫びた

「リサ、一応言っておくけどもう少し言葉使いを何とかしなさい」

「まったくだ……リサ、前から思っていたがお前のその軽薄な口調は時に他人の神経を逆撫でする」

 ベルンはリサさんに対して、普段、娘に対して行うものよりも少し甘めに注意して、リサさんの同僚である風さんもどうやら同僚の口調には含むものがあったらしくベルンに続く様にリサさんを諌めた

「はいはい……まったく、お堅いんだ
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