悪鬼

「友子ちゃんの具合はどうなんです?」

 私は友子ちゃんの部屋に案内される中、友子ちゃんの母親である雪さんに友子ちゃんの容態を訊ねた
 すると、雪さんは唇を噛んで辛そうな顔をして俯きながら答えた

「最初は頭痛程度だったんですけど……次第に立ち眩みや貧血を起こす様になって……
 一か月前からはベッドから起きれなくなって……
 最近は呼吸をするのも辛そうで……」

「そうですか……」

 どうやら、友子ちゃんの容態は刻一刻を争うものらしい

「着いたぞ……」

 私の前を歩いていた友子ちゃんの父親である修さんはやはり私への不信感を拭えないのか私に無愛想にそう告げた
 私はドアの前に立つと

 いるわね……これは……

 この家に巣食う人でも私達とも違う存在の気配を感じた

―コンコン―

「友子?入るわよ」

 雪さんは先程までの悲壮感や疲労感、私への不信感をなくして、安心感を与える様な優しい声で自らの愛する娘に声をかけた

「うん……いいよ……」

 すると、母の声を聞いて安堵したのか今にも消え入りそうな声を振り絞って、母親に心配をかけまいとする健気な愛らしい少女の弱々しい声が部屋の中から聞こえてきた

―ズキ―

 リエル……

 私はその幼いながらも他人を思いやる優しさの込められた声に私が大切に想っている妹の幼い頃のことを思い出した
 少し、元気が良過ぎて無茶をしすぎる所はあるが、それでも他人を思いやれる心とその心から来る勇気では一番である私の誇りである可愛らしい妹のことを
 私にはたくさんの姉妹がいる。だからこそ、私は家族を思いやる人間の気持ちが痛いほど理解できる

―キィー―

 雪さんは娘の返事を聞くとゆっくりとドアを開いた
 私達はそのまま誘われるがままに部屋に入った

「はあはあ……」

 部屋に入ると苦しそうに呼吸をしながらも懸命に生きようとしている女の子の声が聞こえてきた
 修さんはそれを聞くとそっと音を立てずに娘の寝ているベッドに近づき顔を覗うと

「友子……」

 修さんは娘の辛そうな声を聞いて、父親なのにどうすることもできない自分の無力感を噛み締めながら、娘よりも辛そうな声を出してギュッと拳を握りしめた

「はあはあ……お父さん、大丈夫……?」

 すると、修さんの辛そうな表情を見て本当は自分が最も辛いであろう友子ちゃんは父親に対して力を振り絞って優しさを見せた

「友子……」

 雪さんは娘のその健気さに涙を禁じえず、声を出すことで優しすぎる娘がさらに無理をしない様に手で口を覆って、娘の耳に自分の悲痛な声が入らない様に涙の混じった声を出した

「うん、大丈夫だよ……友子も大丈夫か?」

 修さんは娘の優しさに思わず涙を流しそうになるが、これ以上娘に心配を掛けさせまいと先程まで私が見てきた辛苦によって険しくなった表情からただ娘の幸せを想う父親の穏やかな愛情の込められた表情になった
 その顔に私は自分の父親と私の幼馴染であるヴァンパイアの夫が娘であるダンピールに向ける愛おしい我が子に向ける父性愛に満ちた面影と重ねてしまった
 そして、そのまま修さんは娘の愛らしい頭部に持っていくと髪をクシャクシャと撫でた

「えへへ……大丈夫だよ?」

 友子ちゃんは父を安心させるためと父親の温もりを感じた安心感からか無邪気な嬉しさの込められた声で応えた

 なんて……優しい子なの……

 私はその無垢なる魂の瑠璃やダイヤモンド、水晶と言ったあらゆる鉱石をも超える輝きに心が動かされた
 そして、無意識のうちに彼女の許へとゆっくりと足を進めた

「あ、浅葱さん……」

「あ、あんた……」

 私の行動に稲葉さん夫婦は驚いているが、私はおsんなことを気にもせず友子ちゃんのベッドの傍に近寄った

「………………」

 私が見た友子ちゃんの容態は見るだけで心を痛めつけられるものだった
 友子ちゃんは雪さんの話によると10歳らしいが彼女の顔色は先程から想像することはできてはいたが、アンデッド属の魔物娘一歩手前まで血の気が無く血の巡りが悪いことが窺がえ、身体の肉付きは今にも力を少しでも外から加えれば小枝を折るぐらい簡単に圧し折られそうなぐらい骨が見えるほど細く腕に点滴を入れていることから食事を取れていないことが分かり、
 目の下には修さんよりも黒くて痣の様にくっきりと濃いクマが存在し睡眠も十分に出来ていないことが分かる
 そして、呼吸は魚が陸に打ち上げられて苦しむ様に荒げておりとても小学生の女の子には見えない程消耗しており、生きてるのが不思議だった
 副業の都合上、こう言った人間を何人か見てきているが、やはり子供がこんなにも苦しんでいるのは慣れるものではない

「お姉ちゃん……誰……?」

 と見知らぬ人間がいることに友子ちゃんは驚き
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