無明

「ねえ?どうしたのかな、貴水さん?」

 淫靡さを感じさせるピンク色の明かりの中、私のことをジットリと見つめて、私の目の前の男は『表の世界』における私の名前を呼んだ

「あ、あぁ……」

 私は私を『裏の世界』に叩き落とした張本人を目の前にしながらも怒りや恨み、憎しみをぶつけることができず、ただ口をワナワナと震わせて動揺することしかできなかった
 そんな私の様子を見て目の前の男はニヤニヤと顔とさらに陰湿な笑みを深めて

「あ〜、なるほど……『響』て呼ばなきゃだめかな?」

「……っ!?」

 私の心を弄ぶかのように私の『裏の名前』を口にした
 その時、私の胸には過ぎ去ったのは深い恐怖であり、悲しみであり、怒りであり、憎しみであった

「……どうして……あなたがいるんですか……」

 私は胸から湧いてくる自らをもジワジワと焦がすほどの地底に溜まっているマグマの如く、暗くて熱い負の感情を抑えながら目の前の男に尋ねた
 すると、男は陰湿な笑みからパーッとした爽やかな笑みに切り換えて口を開いた

「いや〜、実は今日君を見かけてね〜……
 本人かな〜?と思って、跡をつけたんだよ」

「……え」

 私はそのことを聞いた瞬間、ガツンと頭を鈍器で殴られたような不快感と衝撃、そして、不安を感じた

 跡をつけた……て、まさか……

 私は斉木の一言でこの状況の経緯が推測できた
 斉木は今日、私のことを偶然見かけて尾行していたのだ
 そして、その結果、私がソープ嬢である事を知って、この店に『客』として訪れたのだ。私を弄ぶために
 しかし、私が不安を感じているのは斉木が『いつ』から私を尾行していたかについてだ

「いや〜、まさかさ……」

―ドクン―

 お願い……『あの後』だと言って……!

 私は目の前の男が『あの時』のことを目にしていないことを必死に祈り続けた
 だが、私の願いは届かず

「的場のやつもさ、もう少し周りを見て告白をすべきだよね〜」

 嘘……

 無情な斉木のその一言を聞いた瞬間、私の足元がガラガラと崩れ落ちていくような感覚を感じた
 この男は私のことをあのファーストフード店に入る前から尾行していたのだ
 そして、私と的場さんの会話も店の中で私達に気づかれないように『全て』盗み聞きしていたのだ
 私はこの男に全てを見られていたことにとてつもない屈辱感を感じた
 だが、この男の私に対する陵辱はこれだけで終わりではなかった

「でもさ〜、貴水さん……君も中々ズルいよね?」

「……え?」

 斉木の唐突な一言に私は思わず思考が止まってしまった

 私がズルい……?

 私は一瞬、この男が何を言いたいかわからなかった
 何よりもいつまでもこの男だけにはこれ以上の辱めを受けるのとこいつにだけは卑怯と言われるが我慢できず口を開いて

「何が……ズルいですか!!言っておきますけど、明日、私ははっきりと告白を断るつもりです!!」

 斉木に対する鬱憤を晴らすかのように怒鳴り声をあげて的場さんの告白を断ることを伝え、これ以上自分のことを揺さぶっても無意味なことをはっきりと口にした
 しかし、斉木はそのことを聞いても動揺するどころか

「ふ〜ん、そうか……それで?」

 変わらず人を小馬鹿にするような態度を崩さなかった
 私は内心、イラつきながらも斉木が何かを企んでいることに気づきながらも

「それでて……あ、なるほど……私がここで働いていることを的場さんに言うつもりなんですね?
 それなら、残念ですね……私はそのことも明日、的場さんに伝えるつもりです!」

 先ほど、鈴ちゃんがくれた勇気によって生まれた『決意』を斎木に向かって強くピシッと言い放った
 恐らく、斉木は私が的場さんの私への想いを利用して、この世界から出ていこうとしていると考えているのだろう
 他人を利用することでしか考えず、そのために多くの人間を踏み躙ることをする人間である斉木だったらそう考えるしか出来ないだろう
 そして、斉木はそのことをネタに私を脅して、的場さんにばらさない代わりに私を弄ぼうとしているのだ
 例えば、自分の子供を私に産ませて的場さんに育てさせることや、かつて、あの『悪魔』が『あの女』を寝取った感覚を自らも味わいがために私を使うことなどが考えられる
 この人達、いえ、この連中はそう言った『嗜好』があるのだ
 そして、そのために他人を平気で傷つけられる残虐性もこいつらには存在するのだ
 私はそれを阻止するために明日の返事を毅然とした態度で断言した。だが、

「……ぷっ」

「……は?」

 斉木は私の予想した自分の計画通りにいかず焦るような反応をしなかった
 それどころか

「あっはははははははははははははははははははははははははは!!」

「……!?」

 当
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