『永遠』に刻まれた『夢』

 今、私の眼下に入るのは帰宅していく生徒や部活動に精を出している生徒達だった
 私を照らすのは優しい温もりを与えてくれる黄昏の光だった。それは初夏なのに冷たく辛い現実ですっかりと凍えてしまった私の心と身体を癒してくれた
 そして

「さようなら……」

 私はその温もりの中で最後にそう呟いてこの世界に別れを告げた



 私は今、あるお墓の前に立っている。それは私の親族のものではない

「今日も綺麗にしに来たわよ……春菜(はるな)……」

 それは私の幼馴染であり、親友であった娘のものだった
 いや、私にはあの娘の友達を名乗る資格すらない。なぜなら、私はあの娘を『見殺し』にしたのだ
 私は彼女の眠るこの墓を掃除し始めた

「ごめんね……春菜……ごめんね……」

 しかし、私は彼女の墓を洗うたびに彼女に対する後悔を思い出し、涙を流してしまい掃除することができず、一方的に謝罪を繰り返した
 それが無意味なものであり、自分勝手なものであることを理解しながらも

「貴子(たかこ)……」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえ私が振り向くとそこには

「由美(ゆみ)……あんたも墓参り?」

 私のもう1人の幼馴染の及川(おいかわ)由美が立っていた
 私が尋ねると由美は

「うん……」

 ゆっくりと首を縦に振って頷いた

「そう……」

 私はそれを確認すると涙を拭って春菜の墓を洗い始めた
 この墓に眠っている私と由美の幼馴染である白川(しらかわ)春菜は今年の夏休み前の放課後に学校の屋上から身を投げ14歳と言う短い生涯を幕を閉じた
 私と春菜と由美は家が近かったことから幼い頃からの付き合いでよく近くの公園で遊んだ仲だった
 私はその中で気が強くリーダー格で、由美は明るい性格でムードメーカーで、春菜は大人しめだけど優しくていい娘だった

「うぅ……春菜ぁ……!」

 私は涙をポタポタと落として、後悔と絶望を込めて春菜の名前を叫んだ
 春菜は今年になってから大人しい性格からか、一部のクラスの女子からいじめられるようになってしまった
 最初の内は集団無視などの軽いものであったが、ある日を境に彼女へのいじめは悪質なものへと変わってしまった

「貴子……春菜のことは貴子のせいじゃ……」

 由美は私のことを慰めようとするが

「違う……!!違う……!!私があの時、春菜のことを拒絶しなかったら……春菜は……!!」

 私は自分の頭を抱えて髪をくしゃりと握りしめてそれを否定し続けて叫び続けた

 春菜が死んだのは……私のせい……

「貴子……」

―ギュ―

 由美は私のことを抱きしめた。しかし、私はそんな状況でも譫言の様に

「春菜……春菜……春菜あああああぁぁぁあああ……!!」

 泣きじゃくりながら、二度と会うことのできない幼馴染の名前を繰り返し叫び続けた



 貴子……

 私はもう1人しかいない大切な幼馴染である佐久間(さくま)貴子の懺悔を聞き続けた
 本当は私も泣きたかった。大きな声をあげて春菜の名前を叫びたかった
 だけど、私にはそれはできない
 なぜなら、私も春菜を『見殺し』にしたけど、私よりも貴子の方が辛い筈だから

 春菜……本当にごめんね……

 私は卑怯者だ
 春菜と貴子が仲違いした際に私は何もしなかった。それどころか、春菜のいじめが自分に飛び火しないように私は春菜を助けもしなかったし支えもせず、慰めもしなかった
 私は貴子の後ろについて行くだけだった

 あの時、私が貴子に嫌われる覚悟をしてでも2人の仲を取り持つことをすれば……

―ギュ―

 私は自らを慰める代わりに貴子を抱きしめる力を強めた
 本当は私も泣きたかった。だけど、それはできなかった
 今、私が泣いたら今度は貴子までもがいなくなってしまう気がするからだ



『貴子ちゃん……』

『どうしたの、春菜?』

 春菜は私に遠慮がちに何かを伝えようとした

『あのね……その……実は碓井(うすい)さん達のことなんだけど……』

 碓井とは私達のクラスで、いや、学年で一番大きい女子のグループのリーダーで何かと春菜のことを目の仇にしている女子だ
 春菜は少し、オドオドした態度で私にあることを相談しようとしてきた

『はあ〜、まだ、あいつらあんたのことを無視してんの?』

 私は連中に呆れながら春菜に確認した
 春菜は大人しい性格が災いして、碓井を中心とした女子グループから集団無視といったいじめを五月の上旬から受けていたのだ
 私はそんなことを幼稚なものだと考え、すぐに連中が飽きて終わると思っていたがどうやら私の予想ははずれたらしい

『わかったわよ……じゃあ、放課後相談に乗るわね』

 私は『あの時』の様に彼女に相談に乗ることを約束した
 だけど、今度こそは『あの時』みたいに言
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