「響ちゃん、ご苦労様。今日はもういいよ?」
「はい。ありがとうございます……」
今日の仕事を終えた私、貴水 奏(たかみ かなで)は店を出て、店の近くの私みたいなソープ嬢が住んでいる店の寮へと向かった。そして、自室に着くと一日の四度の性行為で体力を消耗したこともあり、私はすぐに眠りに落ちることになるだろう
どんどん……自堕落になっていくわね……私……
不規則で自堕落な生活を送ることしかできないことに私は不安と恐怖を抱いている。私は今ではソープ嬢になっているが、以前までは普通の女性よりも真面目に規則正しく生きていたつもりだが、今の私は普通の女性と比べることすらおこがましいほど、女性として最低最悪な部類に入るだろう
どうして……こうなっちゃたんだろう……
私は寮への道の中で朝の陽ざしの中でこれまでの自分の行いを振り返った。私は一年前のバレンタインデーに想いを寄せていた上司に告白し、彼に断られた。しかし、その年の3月になると彼は妙にやつれていた。そして、今からちょうど一年前である8月近くにある噂が私の元職場で流れた
『ねえ?知ってる?加藤課長、離婚したんだって』
それは先輩の『離婚話』と
『うそ!?それ本当なの?』
『本当らしいわ、それも……原因が課長のDVなんですって……』
『離婚原因』である課長の『DV』の噂だった。私はその噂を聞いた時、信じることはしなかった。なぜなら、私の知っている先輩は愛妻家で子煩悩で部下思いで優しくて誠実な人だったからだ。だから、私は初めは噂を信じようとしなかった。しかし、あるプロジェクトが私達の職場で持ち上がった時に先輩はいつものように指揮を執ろうとしたが、噂によって求心力を失った先輩には誰も従わず、逆に先輩の長年の片腕と言えたあの男に皆、従うようになった。そして、彼は次第に一人でしかできない仕事ばかりをするようになっていった
少しでも、先輩の支えになってあげるべきだったのに……私……
私はあの時の自分の行動を悔やんだ。私は彼を支えるどころか、自分の身に被害が及ぶことを恐れて、彼を避けてしまったのだ。だけど、それは自己保身のためだけではなく、心のどこかで私は先輩を疑いこう思ってしまったのだ
『私の告白を断ったのは私に魅力がなかったからだったの?あなたにとって……奥さんや息子さんは自分を良き夫や父親にするための装飾品だったの?』
以前、彼が告白を断ったのは自分の経歴に『浮気』と言う汚点をつけないためと考え、彼の優しさは全部自分が可愛いためのものと疑い、何よりも私の『恋』を彼が踏みにじったと私は完全に逆恨みをしてしまったのだ
どうして……私、あの人のことを助けなかったんだろう……そうすれば、あの人はいなくならずにすんだかもしれないのに……
彼はプロジェクトが完遂する寸前の11月に突然、失踪してしまった。私はそれを聞いた瞬間、何も考えられなくなった。そして、私は本当の意味で失恋してしまったのだ
あの時から私はおかしかったわ……
初恋の人を半信半疑のまま失ってしまった私は自分で言うのもどうかと思うが精神が不安定になってしまっていた。そんな時、私のことを慰めるかのようにあの男は近づいてきた。私は最初、鬱陶しく思い軽くあしらってきたがそれでもあの男は私に近づき、優しい言葉を呟いてきた。それでも、私はあの男に心を許そうとしなかった。それはあの男が信じられなかったからではない
加藤先輩のこと……まだ、好きだったのよね……私……
私は彼を完全に信じることはできなかったが同時に完全に疑うこともできなかったのだ。だから、彼への『恋心』は捨てることはできなかったのだ
『私は加藤先輩のことが好きだったんです……いえ、今でもあの人が好きなんです……だから、今はそっとしておいてください』
そう言って、私はあの男にあきらめさせようとした
先輩……本当は私……先輩に自己弁護でもいいから、何か言って欲しかったんです……なのに……どうして……!
私は彼が失踪する前に彼に対して暗い感情を抱いていたが本当は彼自身の口から『真実』を語って欲しかったのだ。だけど、彼はいなくなってしまった。私は初恋の人を失った悲しみと彼が本当のことを話してくれなかった憤りを抱き、それに囚われていたのだ。だから、あの時は私は誰にも関わって欲しくなかったのだ。だが、あの男は
『そうか、でも……辛かったね』
私の頭を撫でながらそう言ってきた
『えっ……』
私はそれに戸惑うことしかできなかった。しばらくすると
『俺は貴水さんのことが好きだから君が辛そうにしてるのは見たくない。もしも、俺にできることがあれば何でもするよ?』
―ギュ―
私のことを抱きしめてそう呟いた。私は
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