第四節『ゼーレ』

―ブクブクブクブク―

 湖の中に背中から落下した僕はその衝撃による痛みと湖の水温によって、一瞬、怯んだがすぐに水面に向かった

―バシャ―

「はあはあ……ベルン様!!」

 僕は自分を助けるために自分よりも先に湖に落下してしまった主の名前を大声で叫びながら、辺りを見渡して主を探し始めた。彼女は僕が手を掴んだ後に僕をそのまま引き上げるようとしたが、既に僕をそのまま引き上げて上昇するには湖面との距離は近すぎたのだ。だから、彼女は咄嗟に自分の閉じていた翼を広げることで空気抵抗を大きくすることで落下速度を緩めた。しかし、それでも落下速度とそれによる衝撃は僕では耐えられるものではないと悟り、僕を空中に放り投げたのだ。しかし、その代わりに彼女が先に落下してしまった

「ベルン様!!ベルン様!!どこですか!!」

 僕は必死になって、彼女の名前を叫び続けた。すると

―バシャー

 何かが湖面から出た音がしたので僕は音がした方を見た。そこには

「はあはあ……」

「……!?ベルン様!!」

 彼女がいた。どうやら、彼女もなんとか水中から浮かび上がることができたようだった。僕は一瞬、彼女を見つけられたことに安堵するが

―バシャバシャ―

「はあはあ……!!」

「ベルン様……?」

 彼女の様子がおかしいことに僕は疑問に思ったが僕の脳裏にある言葉がよぎった

『私は真水が苦手だ……』

「……!!?」

 それは彼女と初めて出会った時に彼女が僕に選択する権利を与えた言葉だった。その言葉が意味することを悟った瞬間、僕は

―バシャバシャ―

「ベルン様!!」

 無意識のうちに体を動かして、彼女の元へとなりふり構わずに泳ぎ始めた。湖の冷たい水温は容赦なく僕の体力を奪った。僕は子どもの頃に水泳をしていたが、水の抵抗が違う自然の水場での移動は人工物のプールとは違うこともあり、僕の身体はなかなか前へと進まなかった。さらには、デスクワークばかりをこなしていた僕はお世辞にも体力があるとは言えなかった

「はあはあ……ぐっ……!」

 それでも、僕は前に向かって泳いだ。目の前の彼女を失いたくなくて

 僕はどうなってもいい……でも、彼女は……!

 彼女は馬鹿な僕を助けるためにあんな目に遭っている。それ以前に僕は彼女に救われたのだ。僕はこの3日間で彼女に士郎に憎まれること以外の苦しみに癒されたのだ。さっきまでは

『もっと、生きたい』

 とすら思ってしまったほどだ。彼女はただ『死』を望むことしかしなかった僕に生きる喜びを再び思い出せてくれた。たとえ、従者や食糧としか思われていなくても彼女だけが僕を必要としてくれた

 彼女が……いなくなるなんて……認めてたまるか……!!

 僕は必死に懸命に泳ぎ続けた。そして、

―ガシ―

「ベルン様!!」

「ひゃん……!?はあはあ……優……?」

 やっと、彼女の傍に辿り着くことができた。今の彼女は湖の水温のせいか、もしくは吸血鬼の弱点である『真水』のせいかわからないが、かなり弱っているようで呼吸が荒かった

 早く、湖からあがらないと……

「ベルン様、岸まで泳ぐので僕にしっかりと掴まっていてください」

「はあはあ……うん……」

 彼女はいつも持っている筈の余裕がない声で僕に返事をした。そして、彼女は僕の腕をしっかりと掴むがその力は空を飛んでいた時に僕の腕を掴んでいた時と比べるとかなり弱々しいものであった

 くそっ!!

―バシャバシャ―

 僕は彼女の腕を自分の腕と脇腹の間に挟むと岸に向かって泳ぎ始めた。しかし

―バシャバシャ―

「はあはあ……」

 湖の低い水温と慣れていない長距離遠泳、子どもの頃に泳いでいたプールとは足が底につかず違い休む場所がない湖と言った要因は容赦なく僕の体力を奪っていった。さらには僕は一度も経験をしたことがない誰かを運びながら泳ぐと言うこともあり、それは体力の消耗に拍車をかけた。余談であるが、水難事故においては溺れている人間を助けようとした人間も溺れてしまうと言うことがあり、実際の救難作業においては縄などによる陸地からの救助が好ましく、それがなければ何か浮く物を用意してからでなくては非常に危険である。だけど、僕達は湖の中央部に落下してしまい、さらには浮く物など持っておらず極めて最悪な状況だ

―バシャバシャ―

「ぜえぜえ……」

 激しい運動をいきなり行い、それを止めることができず休みを入れないで泳ぎ続けたことで僕は激しい息切れを起こし喉が詰まりそうな感覚に襲われ、身体は悲鳴を上げるかのように痛みだし始めた

―バシャバシャ―

 胸は恐ろしいまでに苦しくなり、手足はパンパンになり、喉は乾燥し始めたようで切れそうになるほど痛みが走りだした。だけど

「はあはあ……優
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