「う〜ん……」
―――ちりーん―――
私は夜に目を覚ますと、呼び鈴を鳴らして、昨日得たばかりの『番』、いや、まだ『従者』に過ぎない彼を呼んだ
―――コンコン―――
「ベルンシュタイン様……入ってもよろしいでしょうか?」
ドアをノックして従者は声をかけてきた。すると、私は少し悪戯心が湧き
「ちょっと、待ちたまえ……少し寝巻が着崩れている……」
わざと男の煽情を誘うような発言をした
「え!?で、では、お待ちします!!」
すると、彼は恥ずかしそうに慌ててそう言った。私はその反応に心を躍らせてしまった
ふふふ……なんて可愛らしい反応なの?本当に6歳の子どもを持つ父親なのかしら?
私は彼のその慌てようが愛らしくも感じたが同時に彼が置かれていた状況を考えてしまった。彼は信じていた人間の『裏切り』、自分を信じてくれない周囲による『孤独感』、そして、愛する息子を失った『喪失感』といつか訪れるであろうその子による自らへの憎悪に対する『恐怖』によって心がズタボロになるまで傷つけられた。しかし、それでも彼は息子への愛は捨てなかった。彼の自らの生命すらも最大限に利用して息子に捧げる愛は異常でありながらも美しかった
ああ……妬ましい……彼の愛をその身で受けながらもそれを無下にした女が……!
私は彼を裏切った妻、いや、既に妻ですらない女に対して激しく嫉妬した。私達、魔物娘からすれば夫を捨てるなんて許されることではないし、そんなことを考えることすらあり得ないのだ。この怒りが女性としてのものなのか、魔物娘としてのものなのか、ヴァンパイアと言う貴族の誇りから来るものなのかは理解できない
下等な人間如きがこの『貴族』の私に嫉妬を抱かせるなんてね……ふふふ……よく考えれば、下等だからこそ優の価値に気づかなかったのよ……そう考えれば運がいいわ……
自らの憤りを無理矢理落ち着かせるために私は自分の優位性を考えて落ち着いた。私達、ヴァンパイアは夜に君臨する『貴族』そのものだ。ゆえに人間を同等としては扱わない。しかし、同時に人間の中で稀に見る『輝き』を持つ者を愛する。私達は魔王が今の魔王様になる以前は太陽を見ることができなかった。私達にとっての輝きとは夜空の星と月しかなかったのだ。ゆえに私達の先祖は太陽の持つ輝きに恋い焦がれていたと思う。今の私達は魔王様のおかげで多少の不便はあるが昼間でも外に出ることができ、『太陽』を見ることができる。しかし、私達は太陽が苦手だ。だからこそ、私達は夜でもあの『輝き』を感じたいからこそ、優のような『貴族』の素質を持つ者を求めるのだろう
優……あぁ……すぐにあなたと愛し合いたいわ……大丈夫、あなたがどれだけ傷ついても私が慰めてあげる……私の牙であなたを信じようともしなかった父親の血なんて吸い尽くしてあげるわ……あなたを恐怖させる息子との繋がりも消してあげる……あなたは一度死んで蘇るの……
私は加藤優と言う『人間』を殺したい。彼の重荷となっている人としての『生』を終わらせてあげたい。彼は最早、誰にも見向きもされない『屍』だ。ならば、その『屍』を私のものにしても何も問題は無い筈だ。彼を世界が否定しても私だけは受け入れるつもりだ
「もう、入ってもいいぞ」
「はい」
―――キィ―――
「失礼します」
彼は静かに扉を開けて私の寝室に入ってきた。入ってきた彼の服装は昨日、吸血後に私が彼に与えた執事服だった。ちなみに服を渡した後に彼は少し不満そうな顔をした。どうやら、彼は変えの服があるのにそのことを隠していたことに納得していないらしい。別に私に後悔はない。むしろ、『貴族』としての掟を破らず、優と肌を重ねることができたのだ。むしろ、満足だ
「おや、似合っているじゃないか?」
私は率直に本音を言った。執事服を着た彼は彼の性質から来るものなのかはわからないがまさに『忠臣』と言った言葉が似合いそうな雰囲気を纏っていた。まだ、表情は暗さを残しているがそれ以外は執事服が彼を選んだかのように引き締まっていた。私の賛辞を受け取った彼は顔を赤くして照れるように
「あ、ありがとうございます……」
と礼を言った。私が妙に彼に対して、偉そうに高圧的に接するのはまだ彼が『貴族』になっていないからだ。私は優と言う『個人』は好きだが、今は『人間』を下等として見下している。それはヴァンパイアとしての性質かもしれないが、その決定打は優を捨てた『人間』の愚かさに失望したこともあるのだ。そもそも、かつて私は大切な友人を傷つけたられたこともあり、あまり人間に対しては寛容ではないのに今回のことはそれに拍車をかけたのだ。それでも、魔物娘としての性質なのか、人間のことは根本的には愛しているが私ほど人間に対してドライな見方
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