『太陽』を欲した『獣』

 私、瀬川 陽子(せがわ ようこ)は自分でも言うのもどうかと思うけど成績が優秀で見た目も良いし普段から周囲には笑顔で接してきた。そのおかげで私は男女双方に人気がある。品行方正で礼儀正しいから教師からも信頼されている。そして、それは家でも同じだ。両親はそんな私を自慢に思っている。
 
だけど、私はそれが『苦痛』だ……みんな、私が成績が高くてもみんなそれが『当然』だと思っている……男たちはみんな、私のことを下心でしか近づかない……両親は私が『凡人』でも愛してくれるのだろうか……?私はいつまで、『笑顔』と言う『仮面』をつけなくてはいけないの?本当の私はこんなにも歪んでいるのに……誰も気づいてくれない……向けるのは勝手な『期待』ばかり……そして、私はそれに応えることしかできなかった……きっと、みんな私が少しでも『期待』を裏切れば軽蔑するだろう……だけど、そんな私が唯一安心できる人間がいる……それは

「陽子お姉ちゃん、夜ご飯だよ」

「うん、わかった……ありがとう」

「今日はがんばってハンバーグ作ったんだよ」

「晴太(せいた)のハンバーグ……楽しみにしてるわ」

「ありがとう!!じゃあ、下で待ってるね」

「うん、すぐに行くね」

 私の実の弟の晴太だ。あの子だけが『特別』じゃない私を見てくれる……あの子だけが私を『特別』として見ないでくれる。あの子だけが私を『下心』で見ないでくれる。あの子だけが『特別』じゃない私を愛してくれる。

 晴太は私の6歳下の弟だ。明るくて思いやりのある子で共働きで家をあけが
ちの両親に代わって、文句を言わず家事をしてくれるいい子でもある。そして

 何よりも『笑顔』が素晴らしい……私のような作り笑顔ではなく、心の底から人々を癒す笑顔……あの子は『春の木漏れ陽』だ……だけど、私は時にそれが『苦痛』だと感じている……あの子はその笑顔をみんなに差別なく向ける。それが非常に空しい……私はあの子の『特別』じゃない……あの子には『特別』なんていない……だけど、必ずいつかはその特別に『誰か』が居座る……そうなったら、あの子は私のことを今までのように見てくれるのだろうか?……

 そんな『いつか』に私は常に怯えている。そして、あの子が私に最も『苦痛』を与えるのは

「あ、陽姉きた、早く食べよ」

「あ、うん。静香(しずか)ごめんね……待たせちゃって」

「別にいいよ、それより今日はハンバーグだよ?晴太の作る料理の中でもハンバーグは絶品だから本当に楽しみ〜♪」

「もう、静香お姉ちゃん、褒めても何も出ないよ?」

「え〜でも、晴太のハンバーグは本当に美味しいからね〜そ〜れ!!」

「お姉ちゃん!?恥ずかしいよ!?」

「いいではないか〜、頭撫でさせろ〜」

―――ズキン―――

 私は双子の妹の静香と晴太の絡みを見て、心の中が締め付けられるような感覚に襲われた。そう、私は実の妹に嫉妬している。私は静香が嫌いだ。静香は私と違って成績は『凡人』レベルだ。だけど、私と違っていつも友だちがいた。私と違っていつも本当の『笑顔』でいられる。私と違って『特別』じゃないのにいつも誰かに愛されている。私は勝手な逆恨みで妹を嫉んでいる。それなのにあの娘は私に『家族』として接する。何の疑いもなく。それが余計に私を惨めにする

 だって、同じ『顔』なのに……どうして、あの娘と私はこうも違うの?私は子どもの頃から周囲と比べたら何をやっても物覚えが良かった。ただそれだけなのにみんな私を『特別』だと勘違いした……あの娘は全く『期待』なんてされていないのに……どうして、周囲に人がいるの?どうして、あの娘は……あの子に……『笑顔』を向けてもらえるの?私はそれだけが悲しかった…それだけが空しかった……

「ごちそうさま……」

「あ、陽子お姉ちゃん食器はそのままにしていていいよ?」

「え、でも……」

「もう、陽姉は晴太がいいて言ってるんだからいいんだよ?」

「静香お姉ちゃんは少し、家の手伝いをしてほしいな……」

「ガーン!!弟に差別された」

「いや、こんなことで差別て言われても……」

「じゃあ、塾に行くね♪」

「うん、いってらっしゃい」

―――ズキン―――

「……いってらっしゃい」

「いってきま〜す!!」

 私は弟と妹の他愛もない会話にまた、胸が締め付けられた

 どうして、静香はそんなに自由奔放なのに嫌われないの?どうして、晴太はその娘に笑顔を向けられるの?

 私はそんな薄汚い思考を繰り返しながら二階の自室に向かった。そして、私は日記にあることを書いた

『今日も晴太は妹に笑顔を向けた。あの子は優しいけど、その笑顔が私を苦しめ、癒す。あの子の笑顔で重圧に押しつぶされそうな私は救われている。だけど、その笑顔が私だけのものではないの
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