キマイラさんに取材しに行こう!

これはある時代、ある町に住む変人な小説家のお話――

僕の名前は岸谷弘彦(きしたにひろひこ)、小説家だ。今日はなんてことは無い打ち合わせ、平々凡々な担当編集者と行きつけのカフェで他愛の無い話をして、興味が湧きそうな話題があれば体験しに放浪しに行くというだけの予定だ。

「・・・・おい君、小説家の打ち合わせに『五分も早く着くなんて』どういう神経してるんだ?」

「えぇ?! でも先生、ほかの作家の担当者の方々はそれが当たり前だ、と・・・」

「それはほかの作家の場合だろう? 僕の場合は時間ちょうどに来てくれないか。せっかく構想が浮かび上がっていたアイデアが霧散してしまう、そうなれば君も困るだろう?」

僕の主張にあわあわと狼狽しているのは入社一年目で僕の担当になれた幸運な男、矢部仁(やべじん)。まったくなんでこんなぺーぺーをこの私の担当にしたのかね、理解に苦しむよ。

「さ、打ち合わせをしようじゃあないか。君、ちゃんとそういう『ネタ』持ってきているんだろうな?」

僕は小説を書くにあたって一番重要視していることがある。それは『リアリティー』だと思っている。リアリティーがあるから作品に深みが増すだろうし、リアリティーがあることでよりリアルな作風を読者に提供できると思っている。その考え方から僕はいつも気になる事柄があると、自分で現地に赴き取材をして回っている。これも重要なことなのだ。

「はい、勿論です先生! 実は、この町の郊外の荒野に見たことも無い魔物娘がいるっていう噂があるんですよ!」

「見たこともない魔物娘だってぇ?」

「はい、噂によると獅子のように激情家で、竜のように冷静で、山羊のように淫靡で、蛇のように嫉妬深い魔物娘なんだとか」

「なんだそりゃあッ!? そんなサイコロの出目みたいにコロコロコロコロ性格が変わるヤツなのかそいつは」

「噂では、そうらしいですよ。ほら先生、次の作品は人外ものをかこうといっていたじゃあないですか、だからいいネタかな・・・・と思ったんですけど」

それを聞いた弘彦は長考した後すっと立ち上がる。

「もしかして先生! 興味が湧かれたんですか?」

「ああ、したり顔でニヤつく君の顔には腹立つが、確かにネタは一回調べる価値ありだ。ただ勘違いするんじゃあないぞ、行くのは作品のリアリティーのためだ。君のためじゃあないからな」

「はいはい(素直じゃないなぁ)」

「おい君、僕には君が今心で何を考えているのかぐらいわかるからな?」




ところ変わって町の郊外の荒野に弘彦はやってきていた。スケッチブックとメモ帳と、多すぎない護身用の道具を持ってだ。だが二時間待ち続けても一向にその魔物娘は現れない。

「はぁ〜〜っ。あの担当め、『ホラ』吹いたんじゃあないのか? これで嘘だったら精神的苦痛と無駄な時間の浪費の対価を毟り取ってやるからな・・・・・んっ?」

がさり、という物音がしたので弘彦は反射的に物陰に隠れる。すると件の魔物娘が現れた。それは獅子、竜、山羊、蛇、四つの獣の特徴をその身体に宿し、絹のように透き通る白い肌、赤とコバルトブルーの澄んだオッドアイ、クリーム色の艶やかな髪が特徴的であった。

「そこに居る人間。何者だ」

「ばれちゃあ仕方ないな、出てくるよ・・・・」

物陰からスッと両手を挙げて出てくる弘彦、彼を彼女は品定めするような目つきで見やった。

「なんだ? お前は、こんなところに人間が来るなんて珍しい」

「お前がこの辺りに現れるっていう噂を小耳に挟んでな、取材させてもらいに来た。僕の名前は岸谷弘彦、小説家だ」

「ほう、この私に取材、ますます珍しいな「君だけじゃあない」・・・・なに?」

「言葉通りの意味だ。最初あのくそったれの担当から聞いたときはわからなかったが、君の姿を見て確信した。君は『キマイラ』だろう? それならあのコロコロコロコロ噂が二転三転転がった理由も頷ける。人格(なかみ)が違うんだからな」

「お前は人間の中ではかなりの聡明なようだな」

「しかし僕は運もよかったらしいな、君の今の人格、『竜』だろう? もし『獅子』だったら襲われていた。人間の僕じゃあ太刀打ちできずに殺されてたかもしれない。『山羊』じゃあ甘やかされて堕落させられて小説を執筆できなかったかもしれない。『蛇』なら文字通り、その身体に縛られていただろうな。聡明で思慮深く、冷静沈着な『竜(きみ)』だったから、今僕は生きたまま君に取材ができているという訳さ」

「ほう・・・・ますます興味深い。そんな聡明なお前が、何故『小説家なんか』に就いているんだ?」

その一言で、今まで余裕の笑みを浮かべていた弘彦の表情が怒りのそれに変貌する。

「――この岸谷弘彦が、金や自分の生活のために小説を書いていると思っていたのかァーーーー
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