僕のクラスには、変わった女の子がいる。
彼女の名前は、加賀見 心(かがみ こころ)。
色白な肌に細身の身体、すらっとした腕や脚、茶色がかったショートヘアに、凛とした顔立ち。
はっきり言って、凄く可愛い。
だけど、彼女はいつも無口で無表情。
もし彼女が笑ったら、きっともっと可愛くなると思うのに。
噂によると、彼女に交際を申し込んだ男子が沢山いたらしいけど、全員結果は同じで、
「ごめんなさい」
と無表情で即座にばっさり。
それどころか、例えば女子が一緒に昼食を食べようと誘っても、
「ごめんなさい」
と無表情で即座にばっさり。
なので、今ではこれらの噂を聞いて彼女に話しかけようとする人はほとんどいなくなった。
中には「『心』なんて名前のくせに心が無いんじゃないのか」なんていう人もいる。
だから、彼女はいつも一人で本を読んだり、ぼーっとしたりしている。
僕は、そんな彼女のことがずっと気になっていた。
「加賀見さん」
昼休み、本を読んでいる彼女に、僕は思い切って声をかけてみた。
「…おい、西谷の奴、加賀見に話しかけてるぞ」
「勇者だ」
「いや、バカだろ」
…何か色々聞こえるが気にしない。
「……何」
加賀見さんは、本を読んだまま1ミリも動くことなく、ぽつりとそう言った。
勿論、いつもの無表情で。
…既にもうくじけそうだけど、まだ勝負は始まったばかりだ。
「いや、その、もし加賀見さんがよければ、お昼一緒にどうかなー、と、思って…」
「…おいおい西谷の奴、加賀見を昼飯に誘うつもりだぞ」
「無理だろ」
「やっぱりバカだ」
…外野、うるさいぞ。
心臓がバクバク鳴っているのを自覚しながら僕が言い終えると、加賀見さんは本のページをめくる手を止めた。
そして、
「……何故?」
と、わずかに視線を僕に向けながらそう言った。
「…い、いや、その、何となく、だけど…」
上手い言葉が出てこない。何か背中に嫌な汗をかいている気がする。
「……一人がいいの。ごめんなさい」
撃☆沈。
加賀見さんは既に視線を本に戻しており、もはや僕のことは眼中にないようだった。
「そ、そっか。ごめんね、読書の邪魔して。それじゃ」
僕は気まずさ全開のままとぼとぼと自分の席に戻った。
「西谷の奴、撃沈だったな」
「結果は見えてたから賭けにもならんかったな」
「バカな奴だ」
…畜生、外野(特に3人目)め…。
その後も僕は、何度も加賀見さんに話しかけてみた。
本が好きなの?とか、どんな本を読んでるの?とか。
家の方角が同じだということも判明したから、途中まで一緒に帰ろうと誘ってみたこともあった。
…我ながらしつこい奴だと思う。普通だったら嫌われかねない。
正直、ムキになってやっている部分もあったかもしれない。
それでも、やっぱり僕は彼女のことが気になるし、彼女の笑顔を見たかった。
…が、今のところ全戦全敗。
単に嫌われただけなのかとも思ったが、別に無視されているわけではなく、話しかければ一応答えてはくれる。
なので嫌われているわけではない、と思いたい。
…でも、最初から嫌われているだけかもしれない。
…いや、他の人にも同じ態度だから、僕だけが嫌われているわけではないんじゃないだろうか。
…いやどうなんだろう。ストーカー扱いされる前に諦めた方がいいんじゃないだろうか?
悶々と考えながら歩いていると、前方で何やら声が聞こえた。
「ねぇそこの君、ちょっと一緒に遊びに行かない?」
「大丈夫大丈夫、変なことしないからさぁ」
どうやら男2人で女の子をナンパしているらしい。
だが全く相手にされておらず、女の子はすたすたと歩き続け、男二人はその両サイドを挟むように話しかけながら歩いている。
それにしても、度胸のある女の子だ。
…いやちょっと待て。あの女の子、加賀見さんじゃないか。
「ねぇ君、そんなに無視することないんじゃないかなぁ」
「流石のお兄さんたちでも怒っちゃうよ? ん?」
いや、口元こそ笑っているが、目が笑っていない。明らかにもう既に怒っている。
加賀見さんもぴたりと足を止めた。
…これはマズいんじゃないか!?
そう思った次の瞬間、僕は気がつくと飛び出していた。
「加賀見さん!」
声を上げ、加賀見さんの手を取って逃げようとする。
しかし、あっさりと男2人に回りこまれてしまった。
「…何だてめぇ。邪魔すんじゃねぇよ」
「痛い目あわすぞコラ」
怖い。身体が震える。
でも、加賀見さんは守らないと。
僕は自分の身体で加賀見さんを庇うように男2人の前に立ちはだかった。
「……っ…!」
何かを言おうと思ったが、声が出ない。
だから、精一杯2人の男をにらみつけた
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