細い山道を黙々と歩く。
辺りは見渡す限り木、木、木。つまりは森である。
俺は足を止めて汗を拭い、よろけるように近くの岩に腰掛け、ため息と共に呟く。
「…まずいな。完全に迷った」
旅の途中、近くの街道に盗賊が出ると聞き、それを避けるために山越えのルートをとったのが裏目に出たようだ。
かれこれ3日くらいはこの山の中を彷徨っているが、いつになっても山を抜けることができず、それどころか全く進んでいないような気もする。
持っていた携帯食料や水はほとんど底をつき、森の木の実などで飢えや喉の渇きを癒しているが、それもそろそろ限界に近い。
俺の師匠は、かつて俺にこう言った。
『シロウよ、時には迷うことも悪くないものだぞ』と。
でも師匠、俺、このままだと本気で死にそうなんですが。
「…俺、ここで死ぬのかな…」
思わず弱音を吐く。
疲労も、空腹も、喉の渇きも、既に限界に近かった。
それでもどうにか立ち上がろうとするが、よろめいて、そのまま地面に倒れた。
「…あぁ、これは、もう、駄目、かもな…」
諦めと共に、俺はゆっくりと自分の意識を手放していった。
…意識が闇に沈む直前、誰かの足音が聞こえた、気がした…。
目を覚まして俺が最初に見たものは、木製の天井だった。
…天国ってのは、案外質素なところなんだろうか。
そんなことを考えたが、すぐに自分はまだ生きているのだと思い至る。
確か、俺は山道で力尽きて倒れたはず。
…ということは、誰かが助けてくれたのだろうか。
ゆっくりと身体を起こし、状況を確認する。
あまり飾り気のない質素な部屋だ。
誰かに助けられた俺は、ベッドに寝かされていたらしい。
ベッドの左側には、愛用のジパング刀を含め、荷物がまとめて置いてあった。
そしてベッドの右側を見ると。
大きな一つ目の女の子が、正座してじーっと俺のことを見つめていた。
「#$☆%&@*!?」
驚きのあまり、変な声を上げてベッドから落ちてしまった。
よろよろと起き上がり、再度その女の子を見る。
青みがかった肌に、額の角、大きな一つ目。
…改めて見るとなんてことはない。サイクロプスの女の子だ。
彼女は俺の奇行にも全く動じた様子はなく、変わらず正座したままじーっと俺のことを見つめていた。
「…その、すまない。大げさに驚いてしまって。…君が助けてくれたのか?」
女の子はこくりと頷いた。
「ありがとう。あのまま死ぬかと思ったよ」
女の子はこくりと頷いた。
「…? もしかして、喋れない、のか?」
女の子はふるふると首を振った。
「……喋るの、得意じゃ、ない」
思っていたより可愛い声だった。
「…そうか。俺の名はシロウ、旅の剣士だ。是非とも助けてもらった礼をさせてほしいのだが」
俺がそう言うと、女の子はきらりと目を輝かせ、即座に何かを指差した。
その指の示す方向にあったのは、俺の愛用のジパング刀だった。
「…その、すまない。刀はジパングの剣士にとって、魂と言えるものなんだ。できれば、他のものにしてもらえないだろうか」
俺がそう言うと、女の子は刀を凝視したままふるふると首を横に振り、
「刀、見せて、ほしい」
と言った。
「見せるのは別に構わないが…危ないから気をつけてくれよ?」
「大丈夫」
俺が刀を手渡すと、女の子は刀をゆっくりと抜き、隅々までじっくりと見始めた。
その仕草は不思議と手馴れたものだった。
表情こそ最初とあまり変わらないが、大きな瞳はきらきらと輝いている。
…変わった娘だなぁ。
俺がそう思っていると、女の子は丁寧に刀を鞘に戻し、これまた丁寧な仕草で俺に返してくれた。
そして。
「……しばらく、仕事、手伝って」
と、言った。
俺がぽかんとしていると、彼女は言葉を続けた。
「…助けた、お礼」
「…あ、あぁ。わかった。できることであれば何でも手伝わせてもらうよ」
「…うん。それと、時々、刀、見せて、欲しい」
「…? まぁ、それも別に構わないよ」
俺がそう言うと、彼女はここで初めてわずかに微笑んだ。
「…決まり。よろしく」
「あ、あぁ。えーと…」
「ミサリカ」
「あぁ。よろしくな、ミサリカ」
かくして、俺は彼女の手伝いとしてしばらく厄介になることとなった。
ミサリカが俺の刀に固執する理由はすぐにわかった。
彼女は鍛冶屋だったのだ。
確かに、サイクロプスは鍛冶屋が多いと聞いたことがある。
彼女の工房には、無数の刀剣が置かれていた。
「凄いな…。これ、全部ミサリカが作ったのか?」
ミサリカに問うと、彼女はこくりと頷いた。
「…ちょっと見てみてもいいか?」
ミサリカはこくりと頷く。
俺は近くにあった長剣を手に取り、抜い
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