僕のお祖母ちゃんの家は、物凄く田舎にある。
どれくらい田舎かというと、見渡す限り山だとか畑だとか田んぼだとかが広がっていて、家なんてほとんどない。「隣の家」でも結構歩くレベル。
そんなお祖母ちゃんの家に、夏休みにはしばらくの間両親と遊びに来たりしていた。
一緒に遊ぶような友達も居なく、ゲームもマンガもなかったけど、僕は全然退屈しなかった。
外に出れば街では見たことのないような虫もたくさんいたし、近くの小川では魚釣りもできた。自由研究には事欠かない。
お祖母ちゃんもとても優しく、色々な話を聞かせてくれたり、おやつを用意してくれたりした。大好きなお祖母ちゃんだった。
そして、一番楽しかったのが、お祖母ちゃんの家の蔵の探検だった。
お祖母ちゃんの家は古い日本家屋という感じで、結構広い。
そして、母屋から少し離れたところに、これまた立派で大きな蔵があった。
中は薄暗くて、埃っぽいようなカビ臭いような独特な臭いがして、いろいろな物が所狭しと置いてあって。
ゲームに出てくるような魔法のアイテムとかが眠ってるんじゃないかと、僕はわくわくしながら探検していた。
ある日、僕はまた蔵を探検していた。
すると、薄暗がりの中、大きな箱の後ろで何か動いたような気がした。
僕は好奇心に任せて、大きな箱の後ろを覗き込んだ。
すると、目の前に白い何かがシュルっと飛び出してきた。
それは、小さくて真っ白な蛇だった。
僕は驚いて悲鳴をあげ、その場に尻餅をついた。
「どうしたんだい!?」
庭を箒で掃いていたお祖母ちゃんが、悲鳴を聞きつけて飛び込んできた。
僕は口をぱくぱくさせながら白い蛇を指差した。
お祖母ちゃんはその白蛇を見ると、驚いたような顔をした後、手を合わせて拝み始めた。
「おやまぁ、白蛇様じゃないか。ありがたや、ありがたや…」
「しろへびさま?」
「そうだよ。この辺りじゃね、白蛇様が住んでいる家は栄えるって言い伝えがあるのさ」
「へぇー…」
「守り神みたいなものさね。だから陽介、そんなに驚いたりしちゃ罰が当たるよ。謝っておきんさい」
「う、うん。しろへびさま、おどろいて、ごめんなさい」
僕は白蛇に向き直ると、お祖母ちゃんの言うとおり素直に謝った。
改めて見ると、埃っぽい蔵にいたにも関わらず、まるで少し輝いているかのような白い鱗に、赤くてつぶらな目、時折ちろちろと赤く小さい舌を出したりと、意外と可愛い。
それでいて、何となく不思議な、神秘的な雰囲気を漂わせており、なるほど確かにご利益がありそうな感じだった。
「そうだ、陽介、白蛇様に気に入られた男の人は、将来綺麗なお嫁さんが貰えるという言い伝えもあるんだよ。だから、陽介も拝んどきんさい」
「えー…?」
お嫁さんとか言われてもピンと来ないし、正直恥ずかしかったが、とりあえず僕は何となく白蛇様を拝んでおいた。
当の白蛇はと言うと、その場を動かず、こちらをじっと見たまま舌をちろちろと出していた。
…今思えば変な蛇だったと思う。
やがて白蛇は積まれた箱なんかの間にするりと入っていき、姿が見えなくなった。
その日はいくら探しても白蛇は見つからなかったが、次の日になるとまた姿を現し、探検している僕のことをじっと見つめていた。
僕も次第に「本当に白蛇様なのかも」と思うようになり、目が合うたびに白蛇に挨拶したりしていた。
夏休みも終わりに近づき、家に帰るとき、お祖母ちゃんとお別れするのも寂しかったが、白蛇と会えなくなるのも不思議と寂しく思えたのを覚えている。
それからほぼちょうど10年が経ったある日、お祖母ちゃんが亡くなった。
久々に訪れたお祖母ちゃんの家は、妙に広く、そして静かに感じられた。
葬式が終わった後、僕は縁側でぼーっとしていた。
両親は親戚の人たちと色々話している。遺産の分配とかいろいろ話し合うことがあるらしい。
もちろん、ドラマみたいに遺産相続を廻って血で血を洗う争いに…なんてことにはならない。
それでも、色々と面倒な話もあるらしいので、しばらくはここに泊まることになりそうだった。
僕としても、ちょうど夏休み中で特にやることもなかったので、こういう田舎で過ごすのも悪くない。
…お祖母ちゃんがいないのは、正直、すごく寂しかったけど。
「そう言えば、あの白蛇はまだいるのかな」
ふと思い出したことをぽつりと口にして、僕は蔵へと足を運んだ。
蛇の寿命なんて知らないが、あれから10年経っている。普通に考えたらいるわけがない。
でも、あの不思議な白蛇だから、もしかしたら…などと思ってしまう。
「あれ?」
蔵の前に来て、ある事に気付く。
「…開いてる…?」
蔵の扉が薄く開いていたのだ。
(閉め忘れ? …まさ
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想