「あぁ、今日もいい天気だなぁ。絶好の漁日和だ」
爽やかに晴れ渡った空を見上げ、そう呟く一人の若い漁師がいた。
この後、彼はとんでもないことに巻き込まれることになるのだが、今の彼はそんなこと知る由も無かった。
「ふと思ったんだけどさ、セイレーンとマーメイド、どっちの歌の方が強力なんだろうね?」
事の発端は、あるメロウのこの発言だった。
それを聞いたセイレーンとマーメイドがきょとんとした表情になる。
この日、メロウとセイレーンとマーメイドの3人は、何となく浅瀬で駄弁っていたのだった。
「ほら、だってどっちも歌で男の人を誘うわけでしょ? 同じような能力なら、どっちが強力なのかな、って」
セイレーンとマーメイドは一瞬顔を見合わせてからメロウに向き直り、自信満々に答えた。
「それは勿論、あたしたちセイレーンでしょー!」
「それは勿論、私たちマーメイドだと思います〜♪」
数瞬の沈黙。
セイレーンとマーメイドは再びゆっくりと顔を見合わせた。
…どちらも笑顔なのが怖い。
「やだなぁ、マーメイドってばぁ。セイレーンの歌は航海途中の船をまるごと惹き寄せるくらいの力があるんだよ? それこそ船乗りに恐れられるくらい強力なんだから♪」
「あらぁ、旦那様となる男の方に聴かせるための歌なのに、恐れられてどうするんですかぁ。その点私たちの歌はただ一人の運命の人を想う愛情がたっぷりこもってるんですよ♪」
「そんなこと言ってマーメイドってば、単に歌の魔力が低いだけじゃないのぉ?」
「セイレーンさんこそ、力押しというか、節操がないだけではないでしょうか?」
「ふふふふふふふ…」
「うふふふふふふ…」
「…白黒、はっきりさせようか♪」
「…ええ、望むところです♪」
こうして、二種族のプライドと意地と名誉を賭けた戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
「ということで急遽始まりました『大海原の大決戦〜熱唱・絶唱歌合戦〜』! 実況は私ことメロウちゃんです!」
周囲からわーっと歓声が沸き起こった。
いつもは静かな海だが、今はセイレーン・マーメイドの応援団や暇な海辺の魔物娘、その旦那などが詰め掛けており、何だか凄いことになっている。
当のセイレーンとマーメイドは、それぞれ海面に突き出た岩の上で待機していた。
どちらも目が本気である。
「ルールは簡単、もうじき若い男の漁師が乗った小舟が2人の間を通るので、私の合図と共に歌い始め、最終的に漁師のハートをゲットした方が勝利となります!」
またしてもわーっと歓声が起こる。
それにしても実に都合のいい漁師である。
「それでは、お二人に意気込みの程を聞いてみましょう! まずはセイレーンさん!」
「ふふん、格の違いってやつを見せてあげちゃうよ!」
セイレーンの応援団を中心に歓声が起こる。
「セイレーンさん、やる気十分です! それではお次に、マーメイドさんの意気込みを聞いてみましょう!」
「うふふ、愛情に勝るものはないことを教えてあげましょう♪」
マーメイドの応援団を中心に歓声が起こる。
「マーメイドさんもやる気十分です! …さぁ、漁師の船が近づいてまいりました! 間もなく試合開始です!」
周りの観客は一斉にめいめいの方法で身を隠す。
あっという間にあたりはいつもどおりの静かな海となった。
やがて漁師の船がのんびりとした様子で現れ、そして、二人の間にさしかかった。
「それではっ! レディー、ファイッ!!」
「えっ、何!? 今の、誰の声!?」
驚く漁師を無視し、セイレーンとマーメイドが歌い始める。
最初こそ戸惑っていた漁師だったが、やがて漁師の船はふらふらとセイレーンの方へと進みだした。
「おぉっと! 漁師の船がセイレーンさんの方へと向かい始めました! やはり船乗りたちに恐れられているというのは伊達ではありません!」
しかしマーメイドも負けてはいない。
漁師の船に向けて、より一層情熱的に歌い上げる。
すると、漁師の船はくるりと反転し、今度はマーメイドの方へとふらふらと進み始めた。
「おぉっ! 今度は船がマーメイドさんのほうに惹かれ始めました! 彼女の言葉通り、やはり愛情の勝利となるのでしょうか!?」
今度はセイレーンがより激しく、熱く歌を歌う。
船はまたしても反転し、セイレーンの方へ。
そうするとマーメイドはさらに情熱的に、官能的に歌を歌う。
船はまたまた反転し、マーメイドの方へ。
「戦況は一進一退! どちらも一歩も引きません! 漁師の船は二人の間でくるくると回り続けています!」
一方が有利になるともう一方が巻き返し、そうなるとまたもう一方が巻き返す。
二人とも既に顔を真っ赤にして熱唱を続けていた。
哀れ二人の板ば
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