「そうだ。今度の日曜、駅前のショッピングモールにでも遊びに行かない?」
ふと思い立ち、俺こと水守 葵(みずもり あおい)は、狭い我が家のキッチンでコーヒーを淹れている彼女に声をかけた。
「えっ…?」
彼女がきょとんとした顔で俺の方を振り返る。
整った愛らしい顔立ち。
身にまとったエプロンドレスは、全体がしっとりと濡れており、彼女の肌に貼り付いている。
…別に変なプレイをしていたわけでも、彼女が手違いで水を被ったりしたわけでもない。
俺の彼女、雫(しずく)は、「ぬれおなご」という、いわゆる妖怪なのだ。
「ほら、俺たち付き合い始めてから、デートとかそういう恋人っぽいことほとんどしてないよなー、と思って。いつも雫には世話になってるし、そのお礼も兼ねて、ってことで」
俺と雫が出会ったのは、3ヶ月前のある雨の日だった。
バイト先から帰る途中、雫は誰も居ない公園で一人、傘もささずに佇んでいた。
その光景があまりに幻想的で儚く、綺麗だったので、俺は思わず見とれてしまった。
正直なところ、一目惚れだったと思う。
ふと彼女と目が合い、俺もそこで我に返って、慌てて彼女に自分のさしていた傘を渡し、逃げるようにその場を去った。
その翌日、彼女は俺の家を訪ねてきて、そこで彼女がぬれおなごという妖怪であることを知った。
そして彼女は俺と一緒に暮らしたいと言い出し、俺は喜んでそれを受け入れ、恋人として一緒に暮らすことになって今に至る。
彼女は甲斐甲斐しく俺の身の回りの世話を焼いてくれて、一人暮らしだった俺にとっては非常にありがたい存在ではあるのだが、俺の方からは彼女に大したことはしてやれていない。
なので、せめてもの日ごろの感謝の気持ちを込めて、という意味での提案だった。
で、肝心の彼女の反応はと言うと、驚いたように目をぱちぱちさせていた。
「…あれ、もしかして嫌だった?」
「…っ! いえっ! 嫌だなんてとんでもありません! 嬉しいです! 是非お供させてくださいっ!」
凄い勢いで詰め寄られた。
まぁ喜んでくれているのなら何よりだ。
「ん、それじゃ決まりだね」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながらまたコーヒーを淹れ始める雫。
そんな彼女を見ると、自分が愛されているという喜びと、彼女に喜んでもらえたという嬉しさで、俺の顔も自然と笑顔になってしまうのだった。
…それはそうと。
「ところで雫」
「何でしょうか?」
「…何でエプロンドレスなんだ?」
「この格好、家事をするときに便利なんです。……あっ、もしかして、変、でしたか…?」
「いや、可愛いし似合ってるからノープロブレム」
変と言えば変だが、どうせ家の中だけで見てるのは俺だけだし。
ちょっと悲しそうな顔をした彼女に、ビッと親指を立ててみせる。
彼女もそれを見てホッとしたような表情になる。
…俺の彼女は、どこか微妙にズレている気がする。
「葵さん、すみません。少々、その、相談したいことがあるのですが…」
土曜日。雫は真剣な面持ちでこう切り出した。
「相談したいこと? うん、俺でよければ相談に乗るよ」
「ありがとうございます。その、明日のデートの、私の服装についてなのですが…」
「服装?……あぁ」
彼女たちぬれおなごは、一度見た服ならどんな服でも身体を変化させて再現することができる。
しかし、その服は必ず濡れたものになってしまうのだ。
「やはり、街中で私だけびしょ濡れだと、私はともかく一緒に居る葵さんまで変な目で見られるのではないかと…」
「そうかなぁ。俺は気にしないし、周りの人も気にしないと思うけど」
このあたりには昔から妖怪が多く住み着いている。
なので妖怪が奇異の目で見られることはあまりないと思うのだが。
「いえ、私が気にするのです。…それでですね、濡れていても違和感が無くなる服装を私なりに考えてみたんです。それを見て欲しくて…」
「濡れていても違和感が無くなる服装? …どんなの?」
「いきますよ……えいっ」
彼女が目を強く瞑ると、彼女の服がみるみるうちに変化していく。
そして現れたのは……スクール水着だった。
しっとり濡れた生地が肌に貼り付き、彼女の魅惑的なボディラインをくっきりと浮かび上がらせている。
特になかなかの大きさを誇る胸の破壊力がヤバい。
それに合わせて、胸の名札に書かれた「しずく」という文字とのギャップがまた凄まじい。
「どうでしょう、これなら濡れていても違和感はないと思うのですが」
鼻を押さえて顔を逸らしつつ、俺は彼女に向けて親指を立てた。
「素晴らしい。でも 絶 対 ダ メ 」
「ええっ!?」
「確かにそれは水に入るときに着る服だけど、むしろ水に入る
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