それぞれの戦い

信じられなかった。

間違いなく、自分の腕の中で死んだはずの彼女が。

今、目の前に立っていた。

「……リ、フォン……」

彼女――ラトゥリスは、再度リフォンの名を呼びながら、おぼつかない足取りで彼に歩み寄る。

リフォンは、その場から動くことができなかった。

ラトゥリスは一歩、また一歩とリフォンに歩み寄り、


そして、ゆっくりとリフォンに抱きついた。


「……リフォン……っ!」

「……本当に、ラトゥリス、なのか……!?」

抱擁を交わす二人を、ミルラナは見ていることしかできなかった。

声をかけようにも、言葉が出てこない。

リフォンが、自分から急速に遠ざかっていくような感覚。

胸が張り裂けそうになり、ミルラナは泣きそうな表情で二人から目をそらした。

「リフォン、リフォン……っ!」

ラトゥリスはリフォンを抱きしめながら、彼の名を何度も呼ぶ。

忘れようもない、彼女の声。

だが。

「……ラトゥリス?」

何か違和感を感じ、リフォンはラトゥリスの身体をそっと引き剥がし、彼女の顔を見た。

「……リフォン……♪」

熱っぽい声で彼の名を呼び続ける彼女の表情は蕩けており、光の宿っていない濁った瞳にリフォンの姿が映っている。

「……ラトゥリス? おい、どうしたんだ!?」

「……リフォン、好きだよ……♪ 大好き……♪」

ラトゥリスはリフォンの言葉に答えず、再度彼に抱きついた。

そして、彼の耳元で愛の言葉を囁きながら、彼の耳たぶに舌を這わせ、甘噛みする。

電流が走るかのような快感。

だが、それ以上に、違和感の方が強かった。

リフォンは、今度は力を込めてラトゥリスを自分から引き剥がした。

「……ぁん、リフォン……♪」

「何だ、意外につれない奴だな。折角の想い人との再会なんだ、もっと楽しめばいいじゃないか」

口元に笑みを浮かべながら言うメルストを、リフォンはきっと睨みつけた。

「……ラトゥリスに、何をした……!?」

「おいおい、人聞きが悪いな。魔物化したんだ、以前より積極的になっただけだろ?」

「……違う、どう考えても普通じゃない!! 答えろ!! ラトゥリスに、何をしたっ!?」

声を荒げ、リフォンはメルストに問いただした。

空気が震えるかのような迫力。

だが、メルストは涼しい顔で肩をすくめた。

「……そんなに怒るなよ。何、そいつにお前のことを話したら協力を拒んだから、ちょいと薬で言う事を聞かせただけさ。……もっとも、常人なら致死量レベルの強力な薬だけどな」

「……何、だって……!?」

「まぁいいじゃねぇか。そいつだって、お前に気があったみたいだし。晴れて再会した二人は結ばれてハッピーエンドじゃねぇか」

リフォンは再度メルストを睨みつけた後、ラトゥリスの顔を覗き込んだ。

「……リフォン、好きだよ……♪ 愛してるぅ……♪」

濁った瞳でリフォンを見つめながら、ラトゥリスは再度彼に抱きついた。

リフォンは、黙ってされるがままになっていたが、やがて、静かに呟いた。

「……ラトゥリスを、元に戻す方法は、あるのか?」

「あん?」

「ラトゥリスを、元に戻す方法はあるのかって聞いてるんだ!! 答えろっ!!」

リフォンは顔を上げ、メルストを睨みつけながら、再度声を荒げて問いただした。

しかし、メルストも再度涼しい顔で肩をすくめて答えた。

「残念だが、そんなもん、ねぇよ。別にいいじゃねぇか、死んだ女にもう一度会えただけでも儲けもんだろう?」

「……っ!! ふっ、ざけるなぁ……っ!!」

リフォンが怒りに身を任せ、メルストに飛びかかろうとした、その時。


ラトゥリスが、リフォンを優しく抱きしめた。


「……なっ……!?」

先程までとは様子が違う。

リフォンが戸惑っていると、ラトゥリスは彼を抱きしめたまま彼の耳元に口を寄せた。

「……を、……て……」

「……ラトゥ、リス……?」

ラトゥリスの表情は見えない。

だが、彼女は、リフォンに何かを必死に伝えようとしていた。

「……しを、……して……。……は、……こが、……で……。し…………さいよ……!」

途切れ途切れになりながらも、彼女は言葉を続ける。

その声は小さく、何を言っているのかはリフォンには聞き取れなかった。

だが。

彼女の言葉を。

リフォンは、はっきりと理解した。



『あたしを、殺して。あんたには、あの娘がいるんでしょ? しっかりしなさいよ!』




「……ラトゥ、リス……っ!」

「リフォン……っ♪」

再び蕩けた声でリフォンの耳たぶに舌を這わせるラトゥリスを、リフォンは強く抱きしめた。

リフォンの目から、数滴の雫がこぼれ落ちる。

そして、リフォンは彼女を抱きしめる手を緩めると、片手でゆっくりと腰
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