雨音の中で

「……雲行きが怪しいな」

「……そうね、今にも降ってきそう」

リフォンとミルラナがマシュエットの街を旅立ってからまる1日半ほど過ぎた頃。

二人はカートセリアの街を目指し街道を歩いていた。

辺りはだだっ広い草原になっており、遠くには山々が連なって見える。

その山の向こうから、どす黒い雲が徐々に姿を現していた。

するとすぐに、ぽつ、と二人の顔に水滴が当たる。

「……まずいな、本当に降ってきやがった」

二人は辺りを見回してみるが、あろうことか近くには雨宿りできそうな建物や大きな木もない。

そうこうしているうちに、雨粒は次第に数を増していった。

「……このままじゃ二人ともずぶ濡れになっちまう。ちょっと走るぞ」

「その方がよさそうね。了解よ」

二人は適当な荷物を傘代わりに、駆け出した。

しかし、雨は無慈悲に、どんどん強く二人に降り注ぎ、もはや土砂降りという状態だった。

視界も、道も、どんどん状態が悪くなっていく。

二人は必死に雨宿りできる場所を探し、そしてリフォンが叫んだ。

「ミルラナ! あそこに何か小屋がある! あそこで雨宿りさせてもらおう!」

雨の音がうるさく、大声を出さないと相手の声が聞こえない。

「そうね! そうさせてもらいましょ!」

まるで滝のような豪雨の中、二人はやっとのことでその小屋にたどり着いた。

雨は軒先でしのげるレベルではなくなっていたので、リフォンは小屋のドアを叩きながら叫んだ。

「すみません! 旅の者ですが、少し雨宿りさせてもらえませんか!? すみません!!」

返事はない。というか、中から人の気配がしない。

リフォンはドアの取っ手に手をかけると、ドアはきしむ音を立てながら開いた。

二人はおそるおそる小屋の中に入った。

やはり人の気配はなく、中はすっかり荒れ果てていた。

「……空き家、らしいな。……盗賊にでも襲われたのか?」

「単に家主がこの場所を捨てて別の場所に移ったのかもね」

「ともかく助かった。ここでしばらく休ませてもらおう」

「そうね。……っくしっ!」

ミルラナがくしゃみをして身震いする。

二人はすっかりびしょ濡れで、おまけに気温も下がってきていた。

「このままじゃ二人揃って風邪ひいちまうな。濡れた服を乾かさないと」

リフォンはそう言うや否や、さっさと服を脱ぎ始め、半裸になった。

「ちょ、ちょっと!?」

ミルラナが顔を赤くして慌てる。

その様子を見て、リフォンが苦笑する。

「……いや、仕方ないだろ。濡れた服を着てたら、体温を奪われて風邪引いちまう。……ほれ、お前も脱げ。後ろ向いててやるから」

「ふぇっ!?」

「風邪引いたらまずいだろうが。ほら、さっさと脱いだ脱いだ。俺はその間に暖炉に火をつけてみるから」

そう言うと、リフォンはミルラナに背を向け、適当な木切れなどを暖炉に放り込み、火打石を叩き始める。

「……う、うぅ……」

ミルラナは顔を赤くしたまま、観念したように服を脱ぎ始めた。



暖炉の中の炎に照らされ、二人の影が揺らめく。

外は相変わらず土砂降りの雨が降っており、まだ昼過ぎくらいのはずなのに薄暗い。

ミルラナは小屋にあった毛布にくるまっており、リフォンは半裸のまま暖炉の火にあたっていた。

「……リフォン、ごめんね。……寒くないの?」

ミルラナは申し訳なさそうにリフォンに尋ねる。

小屋の中には使えそうな毛布が1枚しかなく、リフォンは当然のようにその毛布をミルラナに譲ったのである。

「大丈夫大丈夫。直火の遠火で暖まってるからな……っくしょぃ!」

そう言った矢先に、リフォンは派手にくしゃみをした。

ミルラナはわずかに逡巡していたが、やがて、覚悟を決めたように、リフォンに声をかけた。

「……リフォン」

「んぁ?」

鼻をすすりながら、リフォンが答える。

「……この毛布、結構大きいから……その、一緒に、入る?」

ミルラナはそう言いながら、毛布の端をわずかに広げる。

ミルラナも今は服を脱いで乾かしている状態であり、毛布の下はほぼ裸である。

「はっ!? いや、だって、お前、それは……!」

かつてないほどにリフォンが慌てる。

「……一緒に入って、くっついてた方が、その、人肌でも暖まると、思うし……」

消え入りそうな声で、ミルラナは言う。

その顔が赤く染まっていたのは、暖炉の炎に照らされていたから、というだけではないだろう。

「……い、いいの、か?」

ミルラナは小さくこくりと頷いた。



大きめの毛布に、二人でくるまる。

リフォンがミルラナを後ろからすっぽりと抱き抱えるようにして、その上から毛布をまとう。

これが一番効率がいい、と考えた結果だった。

だが、効率がいいということは肌の接触部
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