ミルラナがリフォンと口付けを交わした、その日の夕方。
ミルラナは、妙に帰りの遅いセトゥラを探しに、夕日に照らされた街を歩いていた。
あの後しばらくリフォンと無言で抱き合っていた彼女だったが、何ともいえないむず痒い空気に耐えられなくなったというか、気恥ずかしくなったというか。
幸せではあったが、ずっとそのままの状態だと頭がぼーっとしてのぼせそうだったので、ちょっと頭を冷やしたかった、という理由もあった。
セトゥラはすぐに見つかった。
彼女は、眩しそうに夕日を見ながら、広場の噴水に腰掛けていた。
「……セトゥラ?」
「……あ、ミルラナ」
ミルラナの声に、セトゥラは振り返る。
いつものような元気はなく、儚げな笑みを浮かべていた。
明らかにいつもと違う様子に、何と声をかけたものかミルラナが戸惑っていると、セトゥラは明るい声で、
「……あ、そっか。もうこんな時間だもんな。ごめんごめん、すぐ戻るよー」
と言って、ぐるぐると腕を回しながら宿の方へと歩いていった。
明らかに、空元気だった。
……ミルラナは、その理由を察してしまった。
だから、それ以上彼女に声をかけることができなかった。
人気のなくなった通りを歩き、ミルラナも宿に戻ってくる。
……が、改めてリフォンと顔を合わせるのが何とも気恥ずかしい。
こういうときはどんな顔をすればいいのかわからない。
……少し、頭を冷やさなきゃ。まだ、全部終わったわけじゃないんだから。
ミルラナは改めて考える。
まだ、暗殺ギルドとの戦いは終わっていない。支部をいくら潰しても、大元を潰さなければ終わったとはいえない。
このままあちこちの支部を潰していけば、そのうち大元にたどり着く可能性はある。
だが、相手も警戒しているだろう。そう簡単に尻尾を掴ませてくれるとは思えない。
……駄目だ、やっぱりいい考えが浮かばない。
リフォンと顔を合わせるのはやっぱり気恥ずかしいと思いつつ、ミルラナが宿に戻ろうとした、その時だった。
「……ミルラナ」
彼女を、呼び止める声。
リフォンじゃない。
あまりにも、意外すぎる声。
ミルラナは飛び退りながら素早く短剣を抜いて構え、声の主を睨みつける。
「メルスト……っ!?」
「ああ。久しぶりだな」
声の主は、暗殺者ギルドの連絡役、メルストだった。
ミルラナは戦闘態勢のままメルストの動きを観察する。
だが、メルストは彼女の予想に反し、笑みを浮かべたまま両手をひらひらと振って見せた。
「おいおい、待ってくれよ。俺は別にお前たちとやり合おうってわけじゃないんだ」
「何ですって……!?」
思いがけない言葉に、ミルラナは耳を疑った。
だが、これも作戦である可能性があるので、警戒は解かない。
「……まぁ、警戒するのは当然だろうな。……俺は、お前に情報を持ってきただけさ」
「……情報?」
「ああ。……『彼』からの伝言だ」
「っ!?」
ミルラナは、再度耳を疑った。
ミルラナが寝返ったことはとうに知れているはず。
それなのに、何故今更「彼」がメルストを通して接触してくるというのか?
「……ここから北東の街、カートセリアに行け。そこが、暗殺ギルドの本拠地だ。……『彼』も、そこにいる」
「なっ……!?」
とんでもない情報に、ミルラナはまたしても耳を疑った。
向こうの方から本拠地の場所を教えてきたのだ。
普通に考えれば、明らかに異常だ。
「……それを、信じろっていうの……?」
「信じる信じないはお前ら次第だ。だが、お前ら、動こうにも手がかりが少なすぎて動けないんだろ?」
「……っ」
確かにその通りだった。
「……『彼』は、何を考えているの……?」
「さあな。俺がそこまで知るわけないだろ? ……とにかく、これで伝言は伝えたぞ。じゃあな」
「あっ、ちょっと!」
ミルラナが止めるよりも速く、メルストは建物の陰に溶け込むように去っていった。
ミルラナはしばし呆然としていたが、
「……とりあえず、リフォンに伝えないと……」
と呟き、宿屋の中に戻っていった。
「……なるほど、な……」
ミルラナから話を聞いたリフォンは、険しい顔で考え込む。
ミルラナはそんなリフォンの横顔をじっと見つめていた。
何だかちょっと眩しく見えて、やっぱり気恥ずかしい。
でも、リフォンの方は特にそう思っている様子はなく、いつも通りで、ちょっと悔しい。
ミルラナがそんなことを考えていると、視線を感じたリフォンがふとミルラナの方を見た。
それだけで、ミルラナの心臓がどくんと跳ねる。
「……どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」
「う、ううん。なんでもない」
「そ、そうか……」
リフォンはそう言うと、わ
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