不穏な街

旅立ってから5日目の昼過ぎ頃、リフォンとミルラナはマシュエットの街に到着した。

この街も前の街と同様、暗殺ギルドが暗躍していることもあってかピリピリとした雰囲気を漂わせていた。

「噂じゃ、そんなに大きくはないが芸術が盛んで活気のある街、らしいんだけどな……」

「今はとてもそんな風には見えないわね……」

街の様子を見回し、二人は揃ってため息をついた。

見回り中の衛兵に聞いた話によると、最近も暗殺ギルドの調査に訪れた賞金稼ぎが惨殺されたのだという。

リフォンとミルラナはただの旅人として振舞いつつ、目立たないよう調査を進めることにしていた。

……もっとも、既に暗殺ギルドに目をつけられている以上、あまり意味は無いのかもしれないが。それでも、慎重に行動するにこしたことはない。

「とりあえず、旅の疲れを取るのも大事だ。今日のところは宿を取って休みつつ、今後の方針を考えよう」

「そうね。そうしましょ」

二人は適当な宿を探しに、重苦しい雰囲気の漂う街の中を歩いていった……。



「いらっしゃい」

二人が手ごろな宿を見つけ、中に入ると、宿の主人と思しき中年の男が二人を出迎えた。

「二人だ。部屋は別々で頼む」

「あいよ。2階の一番奥とその手前の部屋を使っとくれ」

「わかった。ありがとう」

「ごゆっくり」

リフォンが宿の主人と宿泊の手続きをとっている間、ミルラナは妙な違和感を感じていた。

何故か、どこからか視線を感じるような気がする。

気取られないようさりげなく周囲を確認してみるが、視線の主と思われる人影は見当たらなかった。

加えて、この宿の主人も違和感があった。

活気がない……のは仕方ないとしても、何故か妙に二人のことをじろじろと見ているような気がする。

街の状況が状況なだけに警戒しているだけかもしれないが、ミルラナはやはりどこか引っかかるものを感じていた。

「ミルラナ、2階の一番奥の部屋とその隣の部屋だとさ」

「あ、うん。わかったわ」

違和感を拭えないまま、ミルラナはリフォンと共に宿の階段を上っていく。

ふとミルラナが一瞬振り返ると、宿の主人と目が合った。

宿の主人はやや慌てたようにすぐに目を逸らし、そそくさとどこかへ歩いていく。

「……」

やはり何かがおかしい。リフォンもおそらく感づいているだろう。

このことについても含めて、リフォンと方針を話し合う必要がありそうだと、ミルラナは思った。

二人それぞれ部屋に入って邪魔な荷物を置いた後、ミルラナはリフォンの部屋を訪れた。

「……ねぇ、リフォン。この街、何か嫌な感じがしない?」

「ああ。そりゃ街の連中だって警戒はしてるだろうが、それにしても妙な感じがする。あまり下手には動けないな……」

リフォンはそう言って眉間に皺を寄せた。

やはりリフォンもミルラナと同じく違和感を感じていたようだった。

「そうね……。向こうだって私たちの動きを掴んでいてもおかしくないし、こちらの方が後手に回っている感じね……」

「まぁな。だが、逆に言えば向こうから仕掛けてくる可能性が高いってことだ。あとは、どう来るか、だが……」

リフォンがそう言ったところで、ミルラナの耳がぴくん、と動く。

そしてすぐ後に、リフォンもその音に気づく。

足音だ。それも、かなり大勢。

足音はどんどん近づいてきて、宿屋の中に入り、そして階段を上ってくる。

二人が身構えるのと同時に、部屋のドアが開け放たれ、簡単ながら武装した衛兵たちが部屋になだれ込んできた。

「動くな!! 抵抗するのならば、容赦はしない!!」

衛兵たちのリーダーと思われる男が、声を上げて牽制する。

周りの衛兵たちは皆武器に手をかけ、いつでも戦闘態勢に入れる状態だった。

「おいおいおい、ちょっと待ってくれ! いきなり何だってんだ!?」

「しらばっくれても無駄だ! 貴様らは暗殺ギルドの密偵だろう! おとなしく投降しろ!」

衛兵のリーダーは二人を威圧するかのごとく大声を張り上げる。

「……なるほど、そう来たか……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? とにかくこの場をどうにかしないと……っ!」

ミルラナは身体を低くして腰の短剣に手を伸ばす。

だが、リフォンはそれを手で制した。

「……駄目だ、ミルラナ。あいつらはどう見ても普通の衛兵だ。下手に手を出すとかえって厄介なことになる。……仕方ない、ここはおとなしく投降しよう」

「……くっ……!!」

ミルラナは苦々しい表情で、短剣の取り付けられたベルトを外し、床に落とした。

リフォンも腰の短剣を外し、同じように床に置き、両手を上げた。

「……あんたらとやりあうつもりはない。……投降するよ」

リフォンがそういうのと同時に、二人は数人の
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