「…あそこが入り口よ」
「…一見すると普通の酒場だな」
リフォンとミルラナは裏路地にやってきていた。
二人の視線の先には、目立たない店構えの、寂れた酒場があった。
「ええ。でも店の奥から古い地下水路に続く通路があって、その奥にギルド員の緊急時や一時的な集合場所として使われている場所があるの。実質そこがこの街の暗殺ギルド支部みたいなものね」
「何だってそんな所に…」
「見つかりにくいからよ。地下水路への通路はここしか残ってないのと、昔水路内に蔵を作る計画があったとかで広いスペースがあったから、都合が良かったのね。酒場はカモフラージュ目的で、後から作られたものよ」
「なるほど。通路が一つしかないってことは、つまり…」
「そう、退路がないことになるわね。…それは、突入した後の私たちにも言えることだけど」
そう言うミルラナは若干不安そうだったが、リフォンの方は全くそのような素振りは見せなかった。
(…本当、大物なのかバカなのか…)
ミルラナは半ば諦めたように小さくため息をついた。
「…あとは、リーダーがいるか、だな」
「…それについては私も何とも言えないわね…。誰がリーダーなのか、本人以外にはわかりにくいようになってるのよ。連絡役は複数人いるけど、多分その中の誰か、としか言いようがないわね」
またしてもミルラナの脳裏にメルストの顔が浮かぶ。
彼も連絡役の一人だ。…となると、彼がこの辺り一帯のリーダーである可能性もあるということだ。
「…誰かわからない、ってのはやっぱり厄介だな」
「…そうね。ただ、常に連絡役が一人は常駐しているはずだから、そいつがリーダーかもしれない。いずれにせよ、ここを潰せばこのあたりのメンバーが動きづらくなるのは間違いないわ」
「…それもそうだな」
二人は静かに酒場へと近づいていく。
窓からは明かりが漏れており、中からは数人の笑い声や話し声が聞こえてくる。
「…普通に飲み客がいるようだが、あいつらは?」
「勿論、ギルド員よ。言うなれば門番ってところね。相手が一般人ならただの飲んだくれみたいに振舞って、自然に追い払ったりするんだけど…」
「…相手が賞金稼ぎと反逆者じゃ、そうはいかないってことか」
「そういうこと。…で、もう一度聞くけど、作戦は?」
「このまま突入だ」
「…了解。一応、頼りにしてるからね」
ミルラナは苦笑混じりにそう言った。
そして二人は堂々と酒場の入り口へと向かい、普通にドアを開け、中に入った。
酒を飲み、笑っていた男たちの視線が、一斉に二人に集まる。
「…おぅ、何でぇ!! 見慣れない野郎だなぁ!? しかも女連れときたもんだぁ!!」
「おっ、よく見たら女の方は『アルティエット』のミルラナちゃんじゃねぇか!!」
「まぁまぁゆっくりしてけよ新入りさんよぉ!! 勿論、ミルラナちゃんもなぁ!?」
狭い酒場の中に男たちの笑い声が響く。
だが、リフォンもミルラナも気づいていた。
彼らの目は全く笑っていなかった。
そして、さりげなく二人を取り囲むように位置を変えている。
「…数は8人。囲まれちゃったけど、勝算はあるのよね?」
「ああ。まぁ見てなさいな」
リフォンはそう言うと、ゆっくりと構えをとりながら目を閉じ、小さく息を吸い、そして吐く。
その瞬間。
「……っ…!?」
ミルラナは全身の毛が一気に逆立つような感覚に陥った。
リフォンを中心に、空気が変わった。
「…『森羅万象、万物の一切は流転するもの也。』…」
リフォンは小さく何かを呟く。
「…な、何だぁ…!?」
男たちも周囲の雰囲気が変わったことを感じ取っていたらしく、明らかに動揺しているようだった。
リフォンはそんな彼らを気にも留めず、さらに何かを唱えるように呟く。
「…『此れ即ち、流れを支配する者は万物を支配する者と心得よ。』」
そして、リフォンは再び小さく息をつき、目を開いた。
「…どうした、来ないのか?」
リフォンは静かにそう言った。
「…ぅ、あ…」
それは、ミルラナがこれまでに感じたことのない、声を出せなくなるほどの気魄。
それは相手にしても同じことで、男たちも気圧されているのが明らかだった。
「…び、ビビるなぁっ!! 相手は二人だ、殺っちまえっ!!」
男たちは気合の声と共に二人に襲い掛かる。
まずは、リフォンに二人。
それぞれ左右の手に一振りずつ短剣を持っており、リフォンを左右から挟むように斬りかかる。
どちらの刃も複雑な軌跡を描き、尚且つ速い。
常人には全て回避することなど間違いなく不可能。
だが。
「ぐあああああぁっ!!」
「ぎゃああああぁっ!!」
一瞬の出来事だった。
ミルラナの目には、すっ、とわずかにリフォンが動き、そ
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