気がつくと、私は、大好きだったお父さんと歩いていた。
お父さんは歩きながら、時々私の頭を撫でてくれた。
その手は、大きくて、優しくて、暖かくて。
私も嬉しくて、お父さんの服をぎゅっと握った。
…でも、お父さんは、私の手をすり抜けるようにして、そのまま歩いていく。
私は一生懸命追いかけるけど、距離はどんどん広がっていく。
…待って、行かないでよ、お父さんっ…!!
・・・・・・・・・・・・
「お、起きたか」
ミルラナはぼんやりとした表情で声のする方を見た。
男の人が座って、私の頭を撫でている。
「…おとー、さん…?」
「…おー、見事に寝ぼけてるなぁ」
そう言って男の人は笑う。
…あぁ、そうだ。この人はお父さんじゃない。
この人は、確か…。
ミルラナはがばっと身を起こし、即座に身構えた。
「な、なななななななっ!? な、何で、あなたが、私のベッドの横で私の頭を撫でてるのっ!?」
「おいおい、そんなに驚くことないだろう」
男の人――リフォンは、悪びれた様子もなくそう言った。
ミルラナは混乱する頭を必死で整理する。
(落ち着け、私! 確か、私は、リフォンと手を組むことになって…)
それ以降の記憶がなかった。
ミルラナの様子から彼女の混乱を悟ったリフォンは、苦笑しながら説明した。
「…あの後、お前はそのまま力尽きるように眠っちゃったんだよ。やっぱり色々あって疲れたりしたんだろうな。で、仕方ないからベッドに運んだわけ」
「だからって何で一緒の部屋にいるのよ!?」
「いや、仕方ないだろ。俺だって、部屋一つしか取ってないんだから」
「だからって、ベッドの横にいることないでしょ!?」
「俺だってそんなつもりはなかったっての。でもお前が俺の服を掴んで離してくれなかったんだよ」
リフォンはそう言いながら、自分の服の裾を指差してみせる。
未だミルラナの片手がしっかりと裾を掴んでおり、裾が若干伸びてしまっていた。
ミルラナは顔を赤くしながら慌てて手を離す。
「…だ、だからって、何で頭を撫でてたのよ!?」
「いやー、だってお前、寝ながら泣いてるからさぁ。つい」
「な、な…っ!?」
ミルラナの顔がさらに真っ赤になる。
「いやいや、それにしても可愛い寝顔だったぞ」
ミルラナは黙ってリフォンの胸倉を掴んで締め上げた。もう片方の手には短剣が握られており、リフォンの首筋に添えられている。
彼女の目は本気(マジ)だった。
「…すまん、悪かった。だから落ち着いてくれ。どうどう」
「とりあえず、着替えたりするから、部屋から出てって。今すぐ。迅速に」
「…はい」
リフォンは逃げるように部屋を飛び出した。
ドアが閉められてから一拍の後、ミルラナはぽふん、とベッドに顔をうずめた。
「〜〜〜〜〜っ!! もう、何なのよぉ…っ!!」
思えばリフォンには醜態を晒してばかりだ。
ミルラナはしばしの間シーツを被って悶絶していたのだった。
「さて、問題はこれからどうするか、だな…」
ミルラナが一通り身支度を整え終わり、二人は再度宿の一室で話し合っていた。
…ミルラナはまだ顔を赤らめたまま渋い顔をしていたが。
「…ど、どうするかって言っても、あなたはもうやることが決まってるんじゃないの?」
「…まぁ、そうなんだが…。その、手を組もうと言った矢先に非常に申し訳ないんだが、問題はミルラナ、君のことだ」
「…私?」
「ああ。二人でバラバラに行動すると、もし片方に危険が迫った場合、もう片方がフォローできない。だから、一緒に行動するのがいいと思うのだが…」
「そうね、その通りだと思う。…でも、それに何か問題でもあるの?」
「…そうすると、君は完全にギルドを敵に回すことになり、そして元同僚と戦うことになるだろう。…今更だが、本当にそれでいいのか?」
「大丈夫よ。どの道もう戻れないし、同じ暗殺ギルドに所属していても、実のところ互いに顔を知っているような人はほとんどいないから」
ミルラナの脳裏に、一瞬メルストの顔が浮かぶ。
だが、ミルラナは小さく頭を振ってそれを振り払った。
「…? 大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。気にしないで」
「そうか? …まぁ、無理はするなよ」
「…うん。ありがと」
なんだかんだでリフォンは優しかった。
ミルラナとしては何故自分を殺そうとした相手にここまで優しく出来るのか不思議でならないが、今はその優しさがこそばゆく、心地よい。
「…さて、そうなると、なるべく早く行動に移した方がいいな。時間をかけても何一ついいことはない」
「そうね。それで、具体的にはどうするつもりなの?」
「ギルド員の潜伏場所を突き止めて、突入して、リーダーを捕まえる」
し
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