ひゅるるるる…
どーん。
満天の星空に、大輪の光の花が咲く。
「たーまやー! えへへ、花火、綺麗だね!!」
「ああ。でも…」
「でも?」
「花火に照らされた君の横顔の方が綺麗だったよ」
「〜〜〜っ、もう、いきなり何言い出すのよぉっ♪」
爆ぜろ、バカップル共め。
心の中でバカップル共に親指を下に向けつつ、俺は一人、屋台が並ぶ川原を歩いていた。
そう、一人で。
悪いかよ、一人で。彼女なんていねぇんだよ。
夏休みだってのに、俺は彼女もいなくて暇だったんだよ。
男友達を誘って何か遊ぼうかとも思ったけど、そいつら揃って用事があるとか彼女と出かけるとかで全滅。死ねばいいのに。
で、近くの川原で花火大会的なのがあるって聞いたから、来てみたんだよ。
あわよくば、浴衣を着た可愛い女の子とお近づきになれるかも、なんて思ってさ。
…結果? そりゃたくさんいたよ。可愛い娘。ことごとく男連れだったけどな。
で、どいつもこいつもバカップルやってやがる。
どうしよう死にたい。誰だよこんな所に一人で来ようなんて考えた奴。俺か。死ね、俺。
だからといってこのまま帰るのもシャクなので、もう少しぶらぶらしてみることにする。
ひゅるるるる、どーん。
たまやー。綺麗だなー。死にてぇ。
「おう、そこの兄ちゃん、チョコバナナ1本どうだい?」
「あ、じゃあ1本ください」
チョコバナナうめぇ。死にてぇ。
「おう、そこの兄ちゃん、くじ引いてかねぇか、くじ! 一等はニンテ○ドー3DSだよ!」
外れた。ピコピコハンマー貰った。要らねぇ。しかもよく見たらあのニ○テンドー3DS、パチモンじゃねぇか。何だよPSP3DSiLLアドバンスって。混ぜりゃいいってもんじゃねぇぞ。
駄目だ。この場のあらゆるものが俺の悲しみを加速させる。
もう帰ろう。
「おーい、そこのお兄さーん」
あー、今日なんか面白いテレビあったっけかなー。
「おーい、お兄さんってばー」
あー、何か人気のドラマの最終回だったな。「春のレクイエム」だっけか。一話も見てないから心底どうでもいいな。
「おーい、そこのピコハン(※ピコピコハンマーの略)持って彼女も連れず一人とぼとぼリア充の巣窟から逃げ帰ろうとしているシケた面のお兄さーん」
「誰だか知らんがいくら何でも失礼にも程があるだろうっ!?」
俺は声の主を全力でにらみつけた。
半纏を着た女性だった。屋台…と言うよりは露天商のように見える。地面にブルーシートを敷き、目の前に何やら大きな箱を置いて胡坐をかいている。
このあたりで屋台に立っている人たちと比べて明らかに若く、ちょっと珍しいなと思ったが、そんなことはどうでもいい。
俺はつかつかと彼女に近寄った。
「さっきから何なんだよ!?」
「いやー、ごめんね? お姉さん、嘘つけないタイプの人種でさぁ」
「全っ然フォローになってねぇよっ!? 余計タチ悪いわ! 用がないならもう帰るぞ!」
「いやいやいや、悪かったって。何かお兄さん、彼女もいなさそうだし、寂しそうで哀れだなー、とおm」
「帰るわ」
俺は女性にくるりと背を向け、その場を立ち去ることにした。
「いやいやいや、だからごめんって! もー、冗談通じないんだからぁ。そんなんだと女の子にモテないぞ☆」
「…本気で怒るぞ。いいから早く本題に入ってくれ」
「いや、その、お兄さん、寂しそうだったから、これ一つどうかなー、って。どれも活きがいいよー」
活きがいい…ということは、生き物なのだろう。
屋台で売っている生き物と言えば、金魚や亀、あとはヒヨコくらいだろう。どれも下手に長生きすると面倒なだけだ。
「悪いけど俺は生き物なんて飼っている余裕なんてないね。ということで、それじゃ」
「いやいやいや! 見もしないでそういうこと言わないの! ほら、ちょっと見るだけでも、ね?」
俺は渋々彼女の前の箱の中を覗いた。
……。
……?
「……何だこれ。植木鉢?」
箱の中には、土の入った植木鉢らしきものがいくつか並んでいた。
「では突然ですが問題です。これは何でしょーかっ♪」
何、と言われても、植木鉢にしか見えない。
少なくとも金魚やヒヨコではない。となると。
「わかった。冬眠中の亀だろ」
今夏だけど。
「ぶっぶー。お兄さん、今夏だよ? 常識的に考えようよ」
凄くイラッとした。
だが亀でもなく、夏に屋台で売っていそうな生き物で、土の入った植木鉢に入っているもの…。
「…あ、わかった。カブトムシだろ」
「ぶっぶー。全然違いまーす♪」
「…もう思いつかねぇよ。面倒だしさっさと答えを教えてくれ」
「えー、もうギブアップ? しょーがないなぁ…じゃあ、正解はっ!」
「正解は?」
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