月の無い、真っ暗な真夜中。
普通なら静まり返っているはずの町外れの小さな墓地に、ザクッ、ザクッと土を掘る音が響く。
闇に溶け込むような黒いマントを纏った男が一人、スコップをとある墓の前の地面に突き立てていた。
彼の名はスライ。
職業は―職業と言えるかは不明だが―墓荒らしである。
この日も、遺体と一緒に墓に埋葬された高価な副葬品を求め、せっせと墓を掘っていたところだった。
やがて、スコップの先端が何かにぶつかる手ごたえを感じ、スライはニヤリと口元に笑みを浮かべる。
慎重に土を除けていくことしばし。ついに棺の全体が掘り出された。
スライは極力目立たないよう、マントの中からランタンで棺をそっと照らした。
見たところなかなか上質な棺である。
久々の「当たり」かと、スライはおもわずほくそ笑んだ。
「こりゃいいものが入ってそうだぜ」
思わずそうつぶやきながら、スライはいそいそと棺の蓋に手をかけた。
「さて、ご対面、っと…」
スライが棺の蓋を開けると、中には胸の前で手を組み、瞳を閉じた少女の遺体があった。
勿論、このような仕事(墓荒らし)をしている以上、彼も死体は見飽きるほど見ているので、恐怖だとか嫌悪感は特に感じない。
それよりも彼が関心のあるのは、遺体のそばにある、もしくは遺体が身につけている高価な装飾品などである。
しかし残念なことに、今回はあまりそういった類のものはないようだった。
せいぜい少女の遺体の首にかかっている金のネックレスくらいだろうか。
「何だよ、期待させやがって…シケてんなぁ」
舌打ちをしつつ、スライは遺体の首にかかっているネックレスに手を伸ばし、慎重に外した。
ランタンで照らすとそのネックレスはキラキラと黄金に輝き、なかなかの上物であるようだった。
「まぁこれだけでも十分か。…ありがとよ、こいつはありがたく頂いていくぜ」
ネックレスを懐に入れながら、スライは少女の遺体に向き直った。
…よく見るとかなりの美少女と言える。
細い指、傷一つ無い肌、銀色の長い髪、そして紫色の瞳。
もし彼女が生きていて町で見かけたら、思わず声をかけてしまうかもしれない、などとスライは考え…。
…いや、ちょっと待て。
…この死体、何でこんなに綺麗なんだ。
…それに。
…棺を開けたとき、この死体、眼を閉じてなかったか?
背筋に冷たいものが走るのを感じながら、スライはギギギと首を動かし、もう一度遺体の顔を見た。
…間違いなく、少女は目を開いていた。
そして。
ぱちぱちと数回瞬きをした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!???」
声にならない悲鳴をあげ、スライは後ろにひっくり返るように飛び退った。
しかし、彼は忘れていた。
彼の背後にも、大きな墓石があったことを。
思い切り墓石に後頭部を打ち付け、スライの意識は夜空に飛んだ。
ズキズキと頭に響く痛みに顔をしかめながら、スライは意識を取り戻した。
どうやらそう時間は経っていないようだった。
意識がはっきりしていくにつれ、先程の恐怖が蘇ってくる。
(あれは夢だ。俺は転んで頭を打ち、夢を見たんだ。そうだ。そうに違いない)
そう結論付けて、スライはゆっくりと身体を起こした。
そして、「それ」が夢ではなかったことをすぐに思い知ることとなる。
「あ゛ー♪」
先程まで遺体だったはずの少女は、今や完全に棺から抜け出し、スライの下半身に手をかけていた。
いつの間にか彼のズボンは半分脱がされており、少女の手は曝け出された彼の逸物に添えられている。
そして、どこか嬉しそうな表情で、口を開き、逸物へと顔を寄せ…。
(食われるっ!?)
身の危険を感じ、スライの頭がフル回転する。
「うわあああぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げ、スライは少女を思い切り突き飛ばした。
その瞬間。
「あっ」
「あ゛」
逸物に添えられていた少女の手が、肩からもげた。
あまりに予想外の事態に、二人ともしばし固まる。
やがて少女は困ったような表情でスライの顔を見た。
「…あ゛ー…」
…何か物凄く悪いことをしてしまったような気持ちになったスライであったが、すぐに気を取り直し、慌てて立ち上がり、ズボンをはく。
そして、一目散に逃げ出した。
「あ゛っ」
少女も慌てて立ち上がり、彼の後を追いかける。
暗いので何度も転びそうになりながらもスライは走り、やがて使われていない墓守の小屋へとたどり着いた。
(ここなら隠れられる!)
しかし、そう上手くはいかなかった。
小屋の扉には鍵がかかっていたのだ。
「くそっ!」
悪態をつきながら、どうにかこじ開けられないかと試してみるが、一向に開く気配はない。
小屋の陰からそっ
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