「よろしくお願いします」
「よろしくおねがいしゃーす!」
自分、陳龍(チェンルン)の礼に対し、元気にレンシュンマオの鈴玉(リンユー)師匠がお辞儀を返す。師匠とのいつも通りの修行の始まりだった。今日で10回目、幾度となく立ち向かったが、今のところ相手に一撃たりとも与えられたことはない。
「それでは、両者、構え!」
審判役の紫薇(ズーウェイ)師匠が指示を出す。
こちらが学んだ通りにゆっくりと棒を構えたのに対し、リンユー師匠は鼻歌まじりに、楽しそうにくるくると片手で棒を弄んでいた。指先でとてつもない軌道を描いてるけど、どうやってるんだあれ…。
「それでは、始め!」
ズーウェイ師匠の合図により、修行が始まった。
「いっくよー
#9825;」
陽気な声と共に、さっきまでの見た目からは想像できないような速さで、リンユー師匠が真っ直ぐ突っ込んでくる。だが、追えない速度ではない。すでに何度も手合わせをして、相手の手は少し読めていた。
「ふんっ!」
腰を低く構え、前方を薙ぎ払う。
「おー…っと!」
しかし、リンユー師匠はすんでのところで勢いを殺し、これを避け、ぐるりと一回転して体重を乗せた重い一撃を繰り出す。こちらも元々当てる気はない、大振りをして隙ができるリスクの方が大きい。棒をすぐさま構えて盾にする。
棒と棒のぶつかり合う乾いた音がすぐ横で聞こえた。
「わー!すごい!初撃こんなにうまく防いだの初めてじゃない!?成長したね!」
我が事のように喜ぶリンユー師匠、こんな時でも可愛く思えるのはとてもずるいと思う。笑顔が眩しい。
「恐縮…です!」
棒を弾いて追撃を加えようとするが、これもひらりとかわされる。ひとまず距離をとって戦況を立て直す。
汗が頬を伝う感触を覚えつつ、深く息を吐いた。ここまでうまくいったのは自分でも驚いている。少し口元が緩んだ。リンユー師匠との修行を始めておよそ1ヶ月、最初は毎回一撃で吹っ飛ばされていたが、そのときと比べれば大きな進歩と呼べるだろう。
「まだまだこんなもんじゃないですよ…!」
調子に乗って(やめときゃいいのに)軽口も叩く。
「うん!じゃあもうちょっと頑張ってみよっか!」
「え?」
言葉の意味を理解する間も無く、師匠は先ほどとは比較にならない速さで、規則性のない非直線的な軌道を描いて向かってきた。急いで目で追おうとするが、焦りか、はたまた己の未熟故か、いやおそらく後者だろうが、少しも捉えることができない。
右…いや左!
ほぼ勘に近い予測で棒を構える。手に棒がぶつかり合う衝撃が走った。危なかった…。
「ていやっ!」
安心したのもつかの間、リンユー師匠は攻撃の手を緩めることなく、次々と棒を振り下ろしてくる。
「ぐっ…」
「ほらほらぁ!反撃しないと負けちゃうよ〜!」
連撃をいなすのに手一杯な自分に、リンユー師匠がいたずらな笑みを浮かべてくる。
このしなやかな体のいったいどこからこんな重い一撃を繰り出しているのだろうか。これでもだいぶ手加減していると思うと恐ろしい。
「こんのっ!」
だが、負けてばかりでもいられない、男にも意地というものがある。先程から同じリズムで攻撃が繰り返されている。次の手を予測して、棒を振り払うことは不可能ではないはずだ。
「ここ!」
一瞬の隙を突いて、棒を振り払う。
「わぁっ!?」
思わぬ反撃を受けたリンユー師匠が悲鳴を上げ、胴がガラ空きになる。この勝負、もらった。棒を体に引き寄せて、渾身の突きを放とうとする。
「やっ…」
しかし、気づけば目の前にはリンユー師匠の姿はなかった。
「やば…ぐっ!?」
危険を察知し、すぐさま体を退こうとするが、前に乗りきった重心は言う事を聞くはずもなく、まんまと相手の術中にはまってしまってはもう遅い。一本取られたのは、こちらの方であるのは確かなことだった。
「チェンルーーーーン
#9825;
#9825;
#9825;」
白と黒のコントラストに包まれた可愛らしいジャイアントパンダが鳩尾に体当たりをかます。これが鈴玉(リンユー)師匠との組み手の終わりを示す、お約束であった。
鈴玉(リンユー)師匠は僕に棒術や仗術、武具の扱い方を教えてくれている。豪快ながらその技巧は繊細な職人技そのもの、到底一般人では至れる境地ものではない。竹の棒で岩を一つ割って見せたときは、さすがに目を疑った。本人曰く、
「チェンルンだったら余裕だよ〜」
とのことだが、何がどう余裕なのかはよくわからなかった。
性格は傍若無人、自由気ままで、人がどうこう言っても気にしないタイプだ。
例えば、この前のこと、
『ああ、なるほど。こうすればいいんですね』
『そうそう。なんだ、意外とやれば…』
『チェンルーーン!!!』
『あど
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