Dエンジェルさんの昔話

〜Dエンジェルの部屋〜

「Dエンジェルさ〜ん、僕です
 書類持ってきたんで入っていいですか?」

「ん、いいよー」

ガチャ




・・・・・・着替え中だった


「全然良くないじゃないですか!?」

「欲情した?」

「しません!! その前にびっくりしました!!」

チッと舌打ちするDエンジェルさん
この人なんか色々と油断できない

・・・・・あ、右の二の腕に薄い切り傷の、痕?

「・・・・その切り傷、どうしたんですか?」

「お、よくわかったわね? こんなに薄いのに」

んーちょっと照れくさいんだけどね、と前置きをしたあと
Dエンジェルさんは言った


「これね、デュラハンと初めて会ったときについたのよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〜数十年前〜


ここは辺境近くの森の上
空を飛んで少し考え事をしていた

私は天の使いとしてここに舞い降りたエンジェルだ

既にいくつもの聖戦に参加し、多くの犠牲を払いながら勝利に導いた
しかし、聖戦に参加しているうちに私は疑問を持った、持ってしまった


魔物とは、本当に邪悪な存在なんだろうか?


私は思ったのだ
今まで教会から戦いを仕掛けたことはあっても魔物側から戦いを仕掛けたことが無いと

私は考えたのだ
もしや彼女らは自分達の住処を、拠り所を、家族を奪われ、それに怒りを感じ戦っているのではないかと

私は、見たのだ
彼女らと彼女らの笑顔が、我々によって、砕かれる、その、様を

ならば・・・・・・私達はなんだ?

魔物達と夫、その子供達の未来を奪い、降伏すら許さずに蹂躙する
それが本当に神聖な神の兵なのか?

邪悪を一掃するというのはわかる
しかし・・・・彼女らはただ普通に、ただ幸福に暮らしたいだけなのではないか?




それは、ある日の聖戦でのことだった

私はある軍を守護し、聖戦を勝利に導いた
そのときの私は自分の役割に疑問を持ったことは無かった
だが、敵の主力だったミノタウロスが私の術で崩れ落ち、命を終える際こう言った

「産めなくて・・・・ごめん、な 私の、赤、ちゃん・・・・・・」

本当に悲しそうに、そう、言った



私は彼女の平穏を奪った
産めたはずの赤ん坊を、産むことすら許さず殺した
いや、それだけではない
今まで私たちが戦ってきた魔物達、その家族の持っていた全ての平穏を奪ってきた

それは・・・・・正しいのだろうか?

本来あるべき世界を取り戻す・・・・・それが教会の、私たちの主張だ
ならば本来あるべき世界とは何か?
魔物が駆逐され、人間が支配者となる世界?
では・・・・魔物達は生きることを許されないというのか・・・・・?
人間が支配者になれば全てが収まると言うのか・・・?

本当に魔物とは、相容れないのだろうか・・・・・・・?

わからない・・・・・わからない・・・・・・









「ふんふ〜ん♪ ふふ〜ん♪」


・・・・・・・・鼻唄?
森の中から聞こえる・・・・・?

気になった私は近くに行ってみることにした


少しひらけた場所に小さな泉があり、そこにはデュラハンの少女がいた
首無しの馬を洗ってやっているようだ

「さて、もう少しで洗い終わるからな〜?」

ブルルッと馬が鳴いたあと(首無しの馬でも鳴くんだ・・・・)
デュラハンの少女に体を擦り付けてきた

「あははっ♪ お前は甘えん坊だな〜♪」

彼女らは仲良くじゃれあいながら楽しそうにしていた

(・・・・・微笑ましい光景だなあ)
まあ、首無しの馬がちょっと怖かったが

ここで彼女を殺すのは容易い
しかし、私は彼女を害する気になれなかった

(・・・・・・・・・・帰ろ)

この光景を壊したくなかった
彼女は魔物だけれど、どうか幸せになってほしいと、そう思った

















「ほお、見ろよ ちっこいデュラハンだぜ」

・・・・・・っ!?
あれは・・・・・近くの町に駐留している傭兵達!?

「な、なんだお前らは!?」

馬を背にし、剣を構えて少女は叫ぶ
実戦経験が無いのだろう、その構えは未熟で、恐怖によってガクガクだった

「おいおい、剣構えられちゃったぜ」
「困ったなー、俺殺されたくねえよ」
「どうする? 殺るか? それともヤるか?」
「相変わらずガキの死体好きなのかよ・・・・」
「いいんじゃねえか? どうせ魔物だろ」

傭兵達は口々にそう言った

「いいさ、殺してから決めようぜ」

そして傭兵は慣れた手つきで剣を抜き放つ
戦いの練度は比較にならないようだ

「ひっ・・・・・」

デュラハンの少女は恐怖で動けないようだった
目からは涙が出ている

「お、泣いてるぜ」
「俺、こういうの興奮すんだよなあ」
「だからお前は趣味悪いっ
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