「・・・・さて、こんなものかな?」
蝋燭の炎でちらちらと照らされる薄暗い石造りの地下室
その大きさはそれほどでもなく、ちょっとした教室程度の大きさだった
地下室というには殺風景で、そこにあるものといえば隅に置いてある机と椅子くらい
あとはちょっとした書物が散乱している程度の部屋であった
その中央に立つ青年は容姿自体はどこにでもいる普通の男
だが、身に着けた装飾品と魔術書からは男が相当の力を持った魔術師であるということがわかる
その彼の前に描かれている魔法陣
とても複雑な魔法陣であり、彼のような高位の術者でも相応の時間をかけて
魔力を込めながら描かねばならない難しい術式である
・・・・それは、召喚の術法
彼ほどの術者ならば使い魔を連れて当然なのだが、彼は使い魔を持っていない
管理が面倒であるため今まで召喚せずにいたのだ
だが、最近になって様々なしがらみが増え、身の回りの雑務が増えてきた為
人手が早急に必要となったので改めて使い魔を召喚する事にしたのだ
「んー、普通の使い魔なら定番はカラスや猫といった動物だけど、人手が欲しいからねぇ・・・・」
動物は魔術師の使い魔として人気が高い
召喚のコストが低い、という事と管理が楽
経済的にも助手や人型悪魔を使うより安上がりという理由でよく使われる
しかし、今欲しいのは人手なのだ
なのでろくに人間の手伝いが出来ない動物は候補から外れる
ということで求められる能力は「ある程度の思考力がある」「管理のしやすさ」「経済的に優しい」が挙げられる
これらを満たし、なおかつ召喚が楽な使い魔候補は・・・・
「インプ、かな? 初期に強力な魔術的処置を施せばアークインプになってもなんとかなるし」
彼女らは思考力もあり、従順で、さらに食料は精のため懐に優しい
これ以上無い人材だった
「さて、あとは起動っと」
青年が魔術を起動させると魔法陣が淡く光り始め・・・・強烈な光を発し始めた
周囲の魔力を取り込み、魔法陣を中心として、まるで竜巻のように渦を作り始める
「あれ? こんなに強力な反応だったっけ?」
なにやら焦りを感じ、慌てて手元の魔術所のページをめくる
そして青年は気付いた
「あ、隣のページの術式と混ざってる・・・・?」
その瞬間
光が爆ぜた
「し、失敗した・・・・どうなった?」
地下室は魔法陣を中心として衝撃を喰らい、辺りのものが吹き飛んだ
かくいう青年も地下室の入り口付近まで飛ばされ、全身を打っていた
そして青年が煙の立ち上る魔法陣の中心を見やると
一人の人影がゆらりと立ち上がった
『ふむ、いささか乱暴な召喚であったが・・・・まあいい』
人影は女
だが、小柄なインプとは違い長身で豊満な肢体の女性だった
煙越しでもその強大な魔力が伝わってくる
『だがまあ、私を召喚できたというのは素晴らしい』
『本来ならば一介の人間の魔術師風情が口を利ける立場ではないのだが』
『特別に私と会話することを許す』
『さて、何用で私を呼んだ?』
『戯れだ、多少ならば願いを聞いてやらんことも無い』
『まあ、貴様次第ではあるがな』
『さあ、願いを言え』
『その上で貴様の器を見極めてやろう』
『魔王が娘の一人、このリリム様がな!!』
「すいません、間違えたので帰ってください」
『えっ?』
『ちょっと待てどういうことだ』
「いやね、俺は使い魔が欲しいの だから貴女いらない」
『いらない!? こ、この私が!?』
「うん、俺が欲しいのはインプであって、リリムはいらん」
・・・・召喚された途端に「いらない帰れ」と言われたリリムは
少なからずプライドが傷ついたようだった
しかも必要とされているのは最上位魔物である自分ではなく下級のインプ
リリムは涙目になっていた
『わ、私だって色々出来るぞ!?』
「知ってるよ、でも正直貴女クラスの魔物制御できないし」
自分の力量を超えることは魔術師にとってのタブー
どうなるかわからない爆弾を抱え込めるはずも無かった
『ではお前はリリムたる私に恥を掻けと言うのか!?』
『自分より下級のインプが必要そうだったから戻ってきた、と周囲に言えと言うのか!?』
「んなこと言われてもねぇ・・・・」
何やら駄々っ子のような様子のリリムに困り果てる
そしてその時、青年に悪知恵が浮かんだ
「そりゃ俺もできればインプより貴女と契約したいけど俺じゃあ貴女を制御できないんですよ」
『・・・・制御が問題なのか?』
「そうですね、契約自体は容易いですが制御という首輪がついてないと困る 暴走されたら目も当てられない」
『ならば首輪とやらを付ければよいではないか』
「俺と貴女の霊格が違いすぎて無理です さな
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