オチも何もない、ただただ甘い稲荷夫婦の一日の断片

「……これで良し、と」

 午前七時。瓦屋根を持つ木造の和風家屋にて。
 襖で囲まれた居間の真ん中を陣取るちゃぶ台の上に載せられた朝食を眺めながら、割烹着に身を包んだ六尾稲荷の『お宮』は満足げにうなずいた。
 今日の朝食は炊きたての白米に豆腐と油揚げの味噌汁。白菜の漬け物に鯖の切り身の塩焼き。そして昨日の残りのほうれん草のおひたし。それらは純朴だが暖かくヘルシーな和の料理の顔ぶれであり、そしてそれらがずらりとちゃぶ台の上に並んでいる姿はまさに壮観とも言えた。

「ふう……我ながらつい本気を出してしまいました」

 そう言って達成感溢れる顔を浮かべながら額の汗を拭ったお宮は、これらの朝食を今から一時間前に起きて一人で作ったのだった。だが彼女はそれを苦と思った事は一度も無かった。

「ふふっ、朝は一日の活力の源。これで旦那様も、今日一日をしっかりと乗り切る事が出来ますね♪」

 お宮は今から二年前に一人の青年と結婚していた。そして結婚してから――正確には結婚する前、好き合った二人が同棲し始めてから今に至るまで、彼女はこうして朝食をサボる事なく作り続けてきたのだ。それも全て、お宮の旦那様に対する尽きる事の無い無限の愛が成せる業であったのだ。

「さて、それではあの人を起こしに行きましょうか♪」

 そう言ってお宮は一度台所に戻って手拭いで両手を拭いた後、尻尾を揺らしつつルンルン気分で旦那様の眠る寝室へと向かった。




 お宮の夫である南方秋人の眠る寝室は、件の朝食の並べられた居間から襖一枚隔てた所にあった。その薄暗い室内には布団は一つしか無く、秋人とお宮はそこで体を密着させて眠りについていたのだった。それは二人が同棲してからどちらかが風邪や怪我をしない限り一度も変わった事の無い習慣のような物であった。

「あらあら、今日もこんなに幸せそうに寝息を立てて……♪ 相変わらず可愛い寝顔ですこと♪」

 そして、こうして秋人よりも早く起きて、愛する旦那様の愛しい寝顔を拝見する事もまた、お宮の習慣の一つであった。それも同棲してから彼女が始めた事であるのだが、最初から今まで、お宮がそれに飽きた事は一度も無かった。
相手は自分の初めてを捧げ、身も心も彼一色に染まりきった愛しの旦那様である。そんな大好きな大好きな旦那様に――それもとっても無防備で可愛い寝顔に飽きるだなんて、お宮にとっては到底信じられる事では無かった。

「そうです♪ こんなに可愛いお顔を見ていて飽きるだなんて、とても信じられません♪ こんな可愛くて愛らしい旦那様を飽きるだなんて、そんな――」

 お宮の熱のこもった言葉は、そこで途切れてしまった。彼女の人間よりも敏感な鼻が、大好きな旦那様から香ってくるある匂いを捉えたからだ。
 それはとても香ばしく、嗅いでいるだけでたちまち病みつきになってしまうような美味しい匂いだった。思わず尻尾も興奮で逆立ってしまう。

「こ、この匂いは……」

 うわごとのように呟き、鼻をひくひくとさせながら視線をその匂いの源へと向けていく。やがてその視線は、腰より下のある一点を捉えたまま静止する。

「まあ――」

 それは薄い毛布を肌着ごと押し上げるように垂直に屹立した、愛しい旦那様の逸物であった。

「……あらあら
#10084;」

 その『男』を声高に主張する威容を前に最初は驚きを見せていたお宮だったが、やがてすぐに平静を取り戻し、次いでその顔を快楽と羞恥でドロドロに溶かしていった。

「もう、旦那様ってば、朝からそんなに硬くしちゃって……
#10084; これは朝食前に、私が鎮めなければいけませんね……
#10084;」

 そうして期待と興奮で蕩けきった顔を浮かべながら、お宮は秋人を起こさないよう、慎重に毛布と下半身の肌着を剥いでいった。




「うん……」

 下半身から伝わってくる、どこかムズムズした感覚によって、秋人は睡眠からの覚醒を迎えた。そしてすぐに頭のスイッチを入れ、その感覚の正体を突き止めようと上体を起こして顔を前に向けた。
 下半身を視界に収めたその瞬間、秋人は一瞬だけその全思考回路を停止させた。

「じゅる……はあ……ぴちゅ、ちゅるるっ、あむ……ちゅっ
#10084;」

 自分の股間の位置に頭が来るようにうつぶせの姿勢になったお宮が、肌着をずらして露わになった自分の剛直を一心に舐めしゃぶっていたのだ。

「んっ、くちゅ……ぴちゅ、ちゅ、はあ……おいし……あん、んむっ……
#10084;」

 甘く、奉仕をするように。自らの愛情を全てぶつけんとするかのようにねっとりと行うその行為は、秋人に言語を絶する快楽と、ささくれ草臥れた心を癒やす安心感を同時に与えた。

「はあ、あ、んむううっ、ずちゅっ、ぴちゃ……あっ
#10084;
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