サイクロプスの殆どは鍛冶をして暮らしている。
彼女達はその誰もが神業級の鍛冶の腕を持っていたのだが、同時にその誰もが進んで人前に出たり、大きな町に出向いてそこで鍛冶屋を営もうとはしなかった。このように他人と触れ合うのを避けるのは、自分達が単眼である事に劣等感を持っているからだとも言われているが、正確な事は判らなかった。
とにかくサイクロプスはそのような特徴を持っていたので、彼女達が開く鍛冶屋も町や集落からずっと離れた所にひっそりと存在している事が普通であった。そして偶然そこを見つけた者だけが、そのサイクロプスの持つ神の如き腕にあやかる事が出来るのだ。
そしてサイクロプスのキャスもそれと全く同じ理由から人の寄り付かない樹海の中に鍛冶屋を開き、また冒険者のウィンは旅の途中に偶然そこを見つけ、以来そこを利用していたのだった。
「じゃあこれ、いつも通りによろしくね」
「うん……わかった……」
そして今日も鍛冶場兼生家の小屋の中でお得意様であるウィンが差し出した剣を受け取りながら、キャスは小さい声で了承の返事を返した。
ウィンは親魔物寄りの考えを持つ若い冒険者であり、子供の頃から大陸中に散らばる遺跡や古戦場跡に出向いては珍しい武具や装飾品をかき集め、それらを鍛冶屋で直してもらってから市場に売りだして生計を立てていた。修復の費用は一緒に持って来た財宝の一部で支払っていた。
キャスの店を見つける前は人間の鍛冶屋に修復を頼んだりしていたのだが、彼女の店を見つけ、彼女の奇跡とも思われる腕に驚愕してからは、もう彼女の処以外の店で修復を頼む事は無くなってしまった。
「ほ、他には? 他にはないの?」
「ああ、ちょっと待ってて。今持ってくるから」
キャスの言葉にウィンがそう返し、一度小屋の外に出てそこに留めてあった荷車に向かった。そして暫くしてから背中にパンパンに膨れ上がった白い布袋を担ぎながらウィンがキャスの元に戻ってきた。そしてキャスの目の前でウィンが袋の封を開ける。
「今日はこのくらいかな」
「うわあ……!」
キャスが驚きの声を上げ、それを見たウィンがどこか自慢げに言った。
剣、鎧、盾、兜。錆びて朽ち果てた物から新品同様の輝きを放つ物まで、ありとあらゆる武具がその袋の中に入っていた。さらに金や銀の塊からそれらを加工して作られた豪華な装飾品などが、その中に混じって燦爛たる光を放っていた。
「この前入った遺跡が『当たり』でね。色々面白いのが見つかったんだよ」
「凄い……こんなに……」
ウィンの説明を耳に入れながらキャスがその場に腰を下ろし、鞘に納められた状態の鋼鉄の剣を真っ先に手にとった。
「ああ、やっぱりお宝よりそっちに手が出るんだ」
「わ、私にとっては、こっちの方がお宝だから……」
いきなり話しかけられたからか、キャスが顔を耳まで赤くして答える。その姿を微笑ましく見つめながら、ウィンが不意に自分の懐に手を伸ばした。
「それとさ、キャス」
「え、なに?」
剣を鞘から引き抜き、その汚れ一つない刀身にうっとりしていたキャスが、そのだらしない顔を引き締めて立ち上がりウィンに向き直る。その顔を間近に見て今度はウィンが顔を赤くしながら、懐に突っ込んでいた手を抜いてその中にあった横長の箱をキャスに差し出した。
「これは?」
「遺跡の中でみつけたんだ。あげるよ」
「あ、あげるって、どうして?」
「いつもお世話になってるしさ。その感謝の気持ちだよ」
緊張で僅かに震えていたウィンの掌にあったその箱を、キャスが恐る恐る受け取って封を開く。
その瞬間、キャスの顔が驚きと喜びでいっぱいになった。
「これって……!」
「気に入ってくれるとありがたいんだけど、どうかな?」
それは一振りのナイフだった。それも刃から柄までが鈍い銀色の輝きを放つ、装飾を一切廃しひたすら実用性を求めて作られた無骨な代物だった。
だが二人にとっては、その方が遥かに値打ちのある物だった。外見だけ取り繕っておいて中身はおざなりにして、肝心な時にへし折れるような不良品などこちらから願い下げであったからだ。
「あ――」
それに何より、キャスは今まで異性からプレゼントと言う物を貰った事がなかった。だからウィンから贈られたそのナイフは、彼女にとって眼前で爆弾が爆発したかの如き衝撃を彼女に与えたのだった。
「嬉しい……!」
「本当!? 良かった!」
その感想を聞いて、ウィンもまた安心したように頬をほころばせる。そして上機嫌な様子で袋とその中身を置いたままキャスに言った。
「じゃあ、俺はこれで。支払いとかはいつも通り、そこにある奴を好きに使っていいから」
「うん、わかった」
キャスが笑顔で返す。それを聞き届けたウィンは彼女に背を
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