宮ノ下高校という学校の生徒は、清楚可憐で礼儀正しい事で有名だ。
校風も荒れてなどいないし、教師は生徒達に信頼、信用されている。
勿論、生徒達も教師に信用されている、と、いうか放任主義というか。
そんな、学校。
だから俺、五十嵐竜二もこの学校なら楽しいかなー。 みたいなノリで入学した。
因みに、受験の時に奮闘し過ぎて、殆ど赤点だった勉強も平均以上の点数が取れるようになった。
高校で通用するかどうかは些か疑問なのだが。
そんな思いで入学したのだが。
宮ノ下高校に、アイツも入学していたなんてのは、嬉し過ぎる誤算だ。
[アイツ]ってのは、俺の初恋の相手、天音川焼羅だ。
見間違える事はまずない。
鮮明に、鮮麗に覚えているからだ。
約二年会って居なかったが、彼女は間違い無く俺の初恋の相手だろう。
外見はとびきりの美しさ。
どんな相手にも優しいし、馬鹿になんかしない。
勉強なんか、最早最強レベルだろう。
そんな完璧な彼女のその姿を見てからの俺の感想は。
(ヤベぇ。 なんでいるんだよ?)
そんな言葉。
わかっていると思うが、嫌いな訳ではない。
むしろストライクゾーンだ。
というか、好きだ。 いや、初恋の相手なんだから、当たり前か。
そう思いながら、少し離れた位置に居る彼女を見る……。
燃え盛る炎のような色合いの髪、途轍もなく美しく整った顔。
オニキスのように深い黒色、でも、綺麗なつり目がちの瞳。
薄い褐色…いや、小麦色より少し濃い色合いの肌と言った方が妥当か。
そして、その身には。
尻尾や、ダークレッドの鱗。 竹刀&木刀。 揺らめいているのは、炎。
そして、白と青を基準にした制服。 スカートから覗いた太ももには、何故か視線を奪われる。
「天音川…焼羅(あまねがわしょうら)……」
何故か、彼女の名前を呟いてしまい、地獄耳の彼女がその呟きに反応する。
「む。 竜二ではないか。 君が居るのは、なんだ。 ……その、う、嬉しいぞ?」
俯いて、「クラスは同じなのだろうか? …その、アレだ。 私は、その」なんて言っているので、少しこそばゆく感じる。
今まで何してたんだ? 久しぶりだが、元気だったか?
こんな感じに、訊きたい事は沢山ある。
だが、緊張で堪えられなくなった俺は、踵を返して歩き出してしまう。
後ろから「へ? あ!? 待ってくれ!」と、聞こえてくるが、今更立ち止まる事は出来ない。
そしてそのまま教室へと戻り、自らの席へと着いた。
未だ早鐘を打つ胸を軽く押さえて、ふと、考える。
そういえば。
……天音川と知り合ったのも、もう二年前になるのか。
早いモンだな。 と。
「ふぅ。 もう終わりか?」
中学二年の夏。
赤髪の少女は、俺の通う剣道場のメンバーや、師範代の親父をも打ち負かして、呟いた。
勿論、俺も挑んではみたが、まるで蚊を叩き潰すような感じで敗北。
圧倒的だった。
彼女の一太刀は美しく、その身軽な動きも、鮮麗に覚えている。
正直、この少女に勝つ事は無理だろう。
だが。
どうしてだろうか? 俺は、負けたというのに、とても楽しかったのだ。
(コイツより、強くなりてぇな……)
この感情は、紛れもなく俺の願望だ。
勝ちたい。 その気持ち一筋で、俺は一言。
「もう一回、御願いします!」
声を張り上げていた。
勝てる気はしない。 でも、負けたくはない。
あの時の俺は、変な意地でも発動していたんだろう。
二回負け、三回、挙げ句には四十を超えた。
「君みたいなのは歓迎するよ。 名前は?」
何回負けた頃だろうか? 彼女が、俺に訊ねる。
「五十嵐…竜二……」
息も絶え絶えの状態で、なんとか答えると。
「そうか。 私は天音川焼羅だ。 よければ、また今度も手合わせ願いたい」
その言葉は、純粋に嬉しくて、嬉しくて。
「あぁ、こちらこそ」
「ふふ……」
彼女…天音川が微笑む。
心臓が、強く、激しく、早鐘を打つ。
その瞬間、俺は人生初の恋に落ちた事を悟った。
(コイツ、可愛いな……)
それから毎日、彼女は現れ、一緒に練習試合や素振りなどもしていた。
そんな毎日が、俺は好きだったんだが。
それが何日も経ったある日。
遂に、彼女に勝つ事が出来た。
嬉しくて、狂喜乱舞したのを覚えている。
でも、その日から彼女は剣道場に現れなくなってしまって。
もう、会えないと思った。
でも、自分の気持ちを伝えたくて。
天音川焼羅を探した。
商店街や、近所の公園とか。
勿論、会う事はなかったのだけれど。
「おい、五十嵐。 返事はしなさい」
「あ、はい。 スイマセン」
思い出に浸り過ぎたみたいだ。
高校生活、初の担任教師[高須京三(たかすきょうぞう)]に、半眼で睨まれる。
いけねぇ。 第一印象は良い方が良いってのに。
「……ふっ。 今度からは気をつけなよ?」
教卓へと歩を進める高須の隣
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