俺がこの旅に出ようと思った切っ掛けとなった少女、優樹。
彼女は今、俺の膝上でエストレアが捕獲した牛(絶対牛じゃ無いから。なんで足六本もあるの?)を食べている。
そこそこ柔らかい肉なのだが、優樹の小さな口では噛み切れないようで、悪戦苦闘している姿が微笑ましい。
ちなみに俺の向かいにはエストレアが座っていて、こちらも肉を冷ます為に悪戦苦闘していた。
そして.....なんなんだコイツは?
俺からちょうど斜め右の位置にいるフィアはえげつない速度で肉を喰らっている。
その隣には積み上がった骨が大量に...。コイツの胃袋は異次元にでも繋がっているのだろうか?
これだけ食べても足りないと言うのだから、その説は間違っていないのかもしれん。
「.......気分が悪くなりそう」
エストレアの呟きには、かなり同意見だった。
まぁ、そんな事は置いておいて。俺も食べなくてはならない。
明日は日の出と共に出発する予定だからな。このままのペースじゃ、アルヴァランスまで着くのにかなり時間を費やしてしまいそうだ。
そう思い、骨付き肉から肉だけを噛み千切り...。
「んむ...はむ」
いきなり後ろを振り向いた優樹に、肉をかすめ取られてしまった。もちろん、口で。
「紀徒が千切ったのを食べたら楽できるね♪」
そう言って、笑顔になる優樹だが...。
.......正直、コレは危険行為だ。俺は、恥ずかしさなんかよりも、向かいから発されている殺意とも言えるであろうモノに畏怖していた。
向かい...即ちエストレアは、いつもどおり変わらない表情で、いつも通りの淡々としていて、澄んだ口調でこう言ったのだ。
「....死にたい?新入りさん」
絶対零度、凍てつく氷のような冷たさを誇る声だった。だが、それに臆さず優樹はこう返答した。
「マンティダエ風情じゃキロプテラには勝てないよ?自然界でもカマキリをコウモリは食すんだからね?」
こちらの声には、絶対的威圧感と誇りのようなモノを感じた。
そして、その台詞の後に静まり返る二人。そしてそのまま睨みあって______。
「子供だねぇ?」
「「違う!!あ...」」
突然フィアが口にした言葉に、同時に異論を唱え、同時に言った事を同時に悔しがる二人。
...コイツらって、似たもの同士だよな、なんて思ってしまう。
「........身長的に、この白髪の方が子供」
黒曜石のような瞳を閉じて、エストレアが呟く。すると
「成長...途中だから...」
と、歯切れの悪くなった優樹が、紅玉のような瞳をうつむかせて呟く。
それに罪悪感を感じたのか、エストレアが「.....でもいつか、大きくなれる」と、補助を入れる。すると
「...ほんとに?」
「.............うん」
可愛らしい笑顔に変わる優樹。それを見たエストレアは、少し微笑んだ(微妙すぎてよく分からないが...)ような気がした。
「仲良くしろよ?」
俺が問いかけると、二人とも頷いた。本当に仲良くすんのかは些か疑問だが。
「ちなみに、白くてどろどろしたモノを飲んだら、身長が伸びるらしいけどなぁ?」
それは...牛乳の事か?いや...でもドロドロしてないしなぁ...
何の事かわからなかったので、訊いてみる。
「なんだよそれ?」
「少年が持っているモノ、なんだけどなぁ...?」
俺が持っている...?....コイツ...
最低な知識を教えやがったなコラッ!!!しかもモロに嘘だ!
「......私と...一緒なら、許可するよ?」
「うん」
そういって、優樹の頭を撫でるエストレア。
「........この子、可愛い...」
どうやら、本当に仲良く(早くないか!?)なったようなんだが...。
会話の内容が駄目だろう!?何が許可なんですかナニが!!
「.......はふぅ....」
優樹を抱き寄せているエストレアは、とても幸せそうな表情なのだが...。
「.....いっぱい、気持ち良くなろ?」
「.......ん」
会話が、残念だった。そしてそれを見たフィアが...。
「面白くなってきたな!少年!!」
ニヤニヤと、大声で言う。なんなのコイツ?
なんかもう色々と......。
はぁ......。
この時ついた溜め息はきっと、いままでで一番深かったんだろうなぁ...。
こんなんで大丈夫か?俺達...。
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