旅立つヒーロー?

白い少女に出会った翌日。
俺はエストレアにこんな話をしていた。
「なんか俺....少し、この世界が見たいんだ」
薄々だが、気付いていた。ここが俺の世界では無いという事には。
エストレアが人で無いのは見た目で分かったし、動物も形がだいぶ違う。
それを頭で受け入れずに、体で感じていた。
だけれど、俺は頭でも受け入れなければいけない気がしたんだ。
そんな感情が、優樹と会って芽生えた。
「俺さ...この世界が知りたい。お前...エストレアとか、他の魔物や人間の事も」
まだ俺の話は続く。
「どうして魔物が人に近いのか知りたい。この世界の人間が魔物をどう思っているのか知りたい」
そして何よりも。
「そんで、何か有れば救ってやりたい。俺に何が出来るとか、そんなもん無いけどな」
何か、出来るハズだ。
昨日のように、悲しそうな目をしていた優樹みたいな子達がいるのなら。
俺が....なんとかしてやりたい。
そんな俺の言葉を、エストレアは黙って聞いていた。
数分...数十分と時間が流れ、エストレアが口にした言葉は。
「...........世界は、広い」
そんな事、分かっていた。
「.......そんな世界で...危ないかも知れない」
そんな事....分かってる。
「.............逃げるしか出来ないカズトには、荷が重い」
う...それは.....。
「.......一人で、何が出来る?」
珍しく、エストレアの口調が強い。
そして何よりも、その口調は弱々しい。
矛盾かもしれない。だが。
「.......私は.........」
弱い口調。だけれど、強く聞こえる声で彼女は告げる。
「.........カズトには、消えて欲しく...ない..」
カズト“には”消えて欲しくない。
そう言った彼女の瞳は潤んでいて。
“には”。
彼女が誰かを失った事があるのだろうか?
分からない。だが。
「俺は....消えたりなんかしねぇよ」
「........そんな事....分から、ない」
瞼を閉じて、ゆっくりと彼女が告げる。だが。
「いや、消えねぇよ」
これだけには自信があった。俺は居なくならない。
何故なら...........。

「お前が....守ってくれるだろ?」

沈黙。
だけど、彼女の黒い瞳は俺を見つめていた。
「俺は.....エストレア。お前を置いてなんかいかねぇ」
俺は言った。
エストレアも知りたい。彼女が、知りたい。
俺は言った。
エストレアが守ってくれる、と。
男として恥ずかしいが、俺は弱い。
誰かに守って貰わなくてはいけない。でも。
「俺は、お前を守ってやる。お前も、俺を守ってくれる。そうだろ?」
弱くても。弱くても、誰かは守れる。
自分を守れて初めて、誰かを守れるようになる?
ふざけるな。誰だそんな事ぬかした奴は。
誰かを守れ。己の全力で。
自分ばかり守って、大切なモノは守れない。
なら。
お互いに、守りあえば良い。
そうすれば、多分ずっと守りあえる。きっと失わない。だから。
「お前も世界を見ろ。俺と、一緒に」
俺にとってエストレアは、大切だ。
彼女が俺を大切と言ったように、俺もコイツが大切だ。
「...........」
彼女は、無言だった。
でも、涙で顔はぐしゃぐしゃになっていて。
「可愛い顔が台無しだぞ?」
笑いかける。すると
「...うるしゃい。でも....」
かんだ。まぁ、気にしないが。
「私は.....嬉しい」
そう言ってくれた。
「カズトはいつも暖かくて....、私は....それが....好き」
彼女が、己の感情を述べる。
普段苦手な、“言葉”を使って。
「汝契約するは、魔の象徴。魔を受け入れ、欲しろ」
彼女がよく分からない言葉を呟いてゆく。
「汝欲するは富、力、権力。全てを与え、何かを奪う」
__________契約を、欲せよ。
彼女がそう言って、手を伸ばす。
だから俺はその手を取って。
「富なんかいらない。力も、権力も。だから、誰かを守れる勇気をくれ」
俺の本心だった。
「ならばそれを与え、我が奪うは汝。」
「構わない」
「契約、完了」
一体なんなんだコレは。その疑問に答えるように彼女が呟く。
「一度くらい.....真似しても、怒らないでね、姉様....」
最後は聞き取れなかったが、誰かの真似をしていたみたいだ。
まぁ、兎に角。
「改めて宜しくな、エストレア」
返事は、返らない。だけれど。
俺の唇に合わせられた彼女の唇が、返事だと受け取ろう。







俺達の物語は、始まった。
11/10/15 07:41更新 / 紅柳 紅葉
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