愛色猫娘。

………。

一体いつからそこに居たのか…『貴方』は、不思議に思いました。

仕事で疲れた身体を休ませようと、布団に入ったはずでしたが…。

気が付くと貴方は、少し古い…大きな館の前に佇んでいます。

明晰夢…ではないか…?

貴方は、そう思います。

明晰夢。夢の中で、意志を持って行動出来る夢…。

貴方はそうやって、館の前で数ある疑問を浮かべていました。

すると、いつの間にか開いた大きな扉から、まだ年端もいかない少女が顔を覗かせました。

少女は貴方に向かって微笑むと。

「…こんばんは、『  』様…。お久しぶり、ですね…」

少し頬を赤らめて、貴方にそう言いました。

そこで貴方は思い出します。

あー、そう言えばここ、よく来るなぁ、と。

辺りを見渡すと、貴方には見慣れた暗闇が広がっています。

最初は怖かったのですが、何回、何十回と訪れていたので貴方はもう、慣れてしまっています。

そんな貴方に、少女が告げました。 

「…『  』様…今日も、準備…できて、ますので…、いきま、す…?」

もじもじと、しどろもどろにそう告げる少女も見慣れていた貴方は。

『     』

と、告げてから少女の手を握ってあげました。

そうすると少女は小さく微笑み、いつも通りに小さく礼を述べてから、貴方を部屋へ誘います。

長い長い、奥が見えない廊下を進む事は無く、貴方が入るのは最初から二番目の部屋。

赤い火を灯す蝋燭の下…銅で出来た名札には、貴方の名前が刻まれています。

「…えと、では…『  』様…。もっといっぱいお話したいですが、どうぞ…お入りくださいませ…」

少し残念そうに呟いて、貴方の手から温もりのある少女の手が離れました。

貴方は何故、少女が部屋に入らないのか疑問がありましたが、何故か訊くことが出来ません。

なので、いつも通りに部屋に入ろうとして…立ち止まります。

「…えと、どうされ、ました…?」

一瞬だけ、ぱぁ…と明るい笑顔を浮かべた少女でしたが、それは本当に一瞬だけ。

そんな少女に貴方は、ポケットの中にあったそれを…手渡します。

『     』

それは貴方が、居酒屋によった時に貰った飴玉です。

「…ぁ…えと…貰っても、良いのですか…?」

もじもじ。

いつもより赤面した少女に貴方は『  』と、肯定します。

すると少女は、包装袋に包まれた飴玉をぎゅっと握り締め、貴方に向かって御礼を言いました。

「あの、ありがとぅ…で、す…」

すっかり真っ赤に染まった頬を隠すように俯いた少女の頭を、貴方は撫でてから部屋に入ります。

「…ぁ……。…『  』様…、お楽しみ、くださいね…?」

やっぱり少し残念そうに呟いて、少女は部屋の扉を閉めました。

すると、す…っと消える扉。

貴方はもう、それも飽きるほど見ているので別に気にもとめませんでした。

ただ、貴方が向かうのはその先にある少しだけ広い部屋。

貴方は、その部屋が好きでした。

仕事で疲れた貴方を癒やしてくれる存在が、いつもそこに待っているのです。

少し歩いて、部屋の扉を開けると―――。

…みー。

その小さな声を聞いて、貴方は思わず顔がにやけてしまいました。

貴方の足元にスリスリと体をすり付けている黒猫…。

貴方はいつも、この館のこの部屋で、その子猫と遊びます。

部屋にはふかふかの絨毯があり、貴方はいつもそこに転がって子猫と戯れるのです。

部屋の隅に置いてある玩具箱の中にある猫じゃらしや転がすと鈴の音がなるボールも使って目一杯遊びます。

貴方にとってそれは、とても魅惑的な遊びです。

猫じゃらしに一生懸命猫パンチを繰り出す子猫を見ていると貴方は和みます。

鈴の音がなるボールを全力で追いかけている子猫を見ていると、自然と笑みがこぼれます。

だって貴方は、白い首輪のついた…『ユメ』という名の黒猫が大好きなのですから。

だけど貴方は今日、とっても疲れていたので…、ユメを撫でるだけです。

一応玩具も出したのですが、貴方は横に転がってユメを愛でるだけ。

なでなでなでなで、と頭や顎、体を撫でる貴方。

ユメはみー、と、小さく鳴いて貴方から離れようとしますが、貴方は離してあげません。

それどころか、ジタバタともがく所も可愛いなぁ、なんて思うくらいです。

しかしやはり、ユメも生き物なので。

やっぱり、怒る時は怒るのです。

ふー、ふーっ、とユメが貴方に向かって荒い息を吐いています。

ふにゃふにゃと言う鳴き声はまるで、貴方に文句を言っているようで。

貴方がそんなユメを未だに離さないのがいけなかったのか、事件は起こりました。

…ぱしっ。

『    』

貴方は痛、と声をあげました。

それは一瞬でしたが、貴方はユメに猫パンチされたの
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