何気なくとも。

…一日。
二十四時間の中で僕が出来る事は限られてくる。
朝起きて、朝食を食べて…歯を磨く。
まだ寝ぼけた頭でスーツを着て、ネクタイをしめて、それから…。
“たったそれだけの事でも、大切な時間を使っていく”
それに、仕事中も…気付けば空は明るみを落として、町が明るく輝いていたり。
そんな一日の最後は、疲れ果てて…気付けば、布団に入っていたり。
僕に出来る時間の使い方は、そんな感じだ。
…それなら、二日。
四十八時間もあれば、きっと有意義な時間が使えるだろう。
……なぁんて。
そんな事がある訳なくて、昨日と同じ事を繰り返して行くんだ。
それはつまり、作られたシナリオをただつまらなく進んで行くだけで。
そのシナリオにほんの小さな寄り道を…作り出していないだけ。
…だけど。だけど、寄り道なんてモノは幾らでも作り出せる。
例えば…いつもの朝食をパンから白飯と味噌汁に変更したり。
どこだか分からないような場所を、ふらついてみたり。
そんなシナリオの寄り道は、まだ子供だった頃にやった寄り道みたいに…色んな発見を与えてくれた。
そう、例えば…。
「…何よ? じろじろ見るな馬鹿」
このヒトと知り合った事…とか。
…何故知り合ったのかすら曖昧だけれど、彼女との出会いはきっと僕に大きな寄り道をさせてくれた。
確か、出会い頭でビンタされたっけ。
あれは…酔っ払ってたからこたえたなぁ、だとか…。
思い返すと、小さな苦笑が零れ出た。
「…いきなり笑わないでよ。何よ、食べないなら下げるんだから。別に、あんたの為に作った訳じゃないし…」
そう言う彼女は言葉とは裏腹に、皿によそったご飯をぐいっと前に押し出していて。
それに小さく微笑むと、「だから何で笑うのよ」と、睨まれてしまった。
だから僕は手を合わせて、頂きますと言い、箸を取って料理をつつく。
それはお世辞にも美味いとは言えない出来の肉じゃがだったけど、きっとそれは気のせいで。
…そっぽを向いてしまっている彼女に向かって美味しいよ、と告げると、頭の蛇達がしゅるしゅると蠢く。
―――あ、嬉しいんだ。
と、見ていたら彼女の心情も分かるようになっていた。
だからもう一度だけ、美味しいよと告げる。
するとじとっとした瞳で睨まれるけれど、それはきっと恥ずかしさを紛らわす為だろう。
だって彼女は人一倍恥ずかしがり屋で、強気なくせに…素直じゃないだけなんだから。
…少ししょっぱい肉じゃがを頬張りながら、彼女が隠している左手を見やる。
―――やっぱり、素直じゃないなぁ。
その手は、指にも、手のひらにも沢山の絆創膏。
そして…彼女の後ろの方を…キッチンを見やると。
沢山の料理本や、何故か焦げた鍋…それに、三角コーナーに見える無数のジャガイモの皮。
普通は見えないそんな場所だけど、あれだけ積み上がっていたら嫌でも分かる。
いつも通り、平静を装う彼女だけど…、それは彼女の強がりで。
…だから、ほら。
“お世辞にも美味いとは言えない出来だけど、やっぱりそれは気のせいだ”
だから僕は、彼女に精一杯の御礼を告げる。
ありがとう。美味しかったよ、御馳走様。
飾り気のない言葉だけれど、そんな言葉がきっと、どんな言葉より響くだろう。
だって、ほら。
「…お、御礼なんていらないわよ。ちょっと作りすぎたからあんたにあげただけだから…っ」
ぷいっとそっぽを向いた彼女に、内心作りすぎってレベルじゃないと思うけど。
彼女の頭の蛇はやっぱり嬉しそうで、彼女自身も…少しだけ、嬉しそうだから。
だから僕は、そんな彼女を見て嬉しくなって。
思わず笑ってしまうと、「だから何で笑うのよっ」と怒られてしまう。
怒られてしまうけれど、やっぱり笑みは止まらなくて。
「何なのよ、もう。笑わないでよ、ホントに…もう…」
そう言う彼女に向かって、僕はこう告げる。
―――自分も笑ってるって、気付いてる?
すると、途端に真っ赤になりながらそっぽを向くもんだから、やっぱり笑いは止まらない。
「笑うなアホっ! 何なのよ、私は笑ってないっ!」
…笑ってるて。思いっきり笑ってるって。
そう思いながらも口には出さないで、にやにやしながら彼女を見やる。
すると、恥ずかしがり屋な彼女は…それを紛らわすように。
「…何なのよあんたっ! わ ら っ て な い の よ!」
ぷんすかと怒って…いや、怒ったふりをして、僕の手足を石化させる。
そしてそのまま「…そこで反省してろ馬鹿っ」と言うと、蛇みたいな下半身でリビングを後にした。
…ように見せかけて、ガラス張りの扉の向こうにたたずむ彼女が見えるのは、笑って良いのかな。
そう思いながら微笑むと、いきなり「反省してないっ」と言われて更に石化は進んで行くけれど。
そう言う彼女も笑っていて、やっぱり僕の笑いも止まらなくて。
結局僕は、身動きすらとれなくなっ
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