キキーモラさんに救われる話

部屋に籠り始めてどのくらいの時間が過ぎただろうか。

常にカーテンを閉めっぱなしにしている為、日中なのか夜なのか判断が付かない。
布団からモゾモゾと芋虫のように体を動かし手元にある置時計の時間を確認すると既に時刻は午後を指していた。

「はぁ…」

思わずため息が出る。こんな生活がもう何か月も続いているのである。所謂引きこもり状態だ。
ふと目を棚に移すとそこには家族写真が飾られていた。幼いころの自分と父と母が海を背景にニコニコしながらカメラに向かってピースサインをしている。

幸せそうな家庭だ。もう一生手の届かないであろう存在なのが悲しくなってくる。
この頃の両親や自分が今の現状を見たら何を思うか、何という言葉を掛けてくるか想像しただけで情けなってくるのでこれ以上考えるのを止めた

気だるい体を動かし溜まりに溜まったゴミを退け冷蔵庫へと向かい、作り置きしておいた麦茶をコップへと注ぎ一気に飲み干した。
乾いた体に水分が補給され寝ぼけたままだった思考がはっきりし始める。

いつから自分はこのような堕落した人間になってしまったのだろうか
思い返してみると幼いころからダメ人間だった記憶が蘇る。

小学校、中学校、高校共に成績は常に低空飛行、運動もダメ、周りとのコミュニケーションがうまくいかなくて友達などいなかった。
いじめを受け学校に行かなかった時もある。

苦労しながらも就職活動を行い運よく面接が通り会社勤めしていた時期もあったが物覚えが悪くそれが原因で人間関係を拗らせ何の計画性もなく辞めてしまった。

俺という人間はなぜこんなにも出来損ないなんだろうか
他人より劣りいつも失敗ばかりで周りの足を引っ張ることしかできない社会不適合者だ

今までに何度も自殺を考えてきたが死ぬのが怖くなり行動に移す事は結局無かった。
生きる気力もないし死ぬ勇気もない。このままずっと惰性で生きていくしかないのだろうか。

生まれてこなければ良かった。

こうして日々自己嫌悪ばかりに時間を取られて何もせず過ごす日々が続いた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある日いつものようにネットで匿名掲示板を見て時間を潰していると奇妙な広告を見かけた

「なんだこれ…?」

その広告にはデフォルメ調のメイドのイラストと『抽選で貴方のお家にメイドさんが!』という文字がでかでかと書かれていた。如何にも怪しい広告だ
最初は無視しようと思えたがどうにも心に引っ掛かりつい気になってクリックしてしまった

開かれたページには可愛いメイドさんがズラリと並んでおり、抽選の案内が書かれていた
どうやらメイドを派遣する会社の抽選らしい、そんな珍しい会社が存在していることに戸惑いを感じつつ、いろいろ書かれている規約を適当に見ていくと目を引く内容がそこにはあった。

「嘘だろ…」

なんと抽選に当選すると料理、洗濯、掃除その他諸々の家事をこなしてくれるメイドさんが無料で派遣されてくる上に生活費を援助してくれるというものだった
信じられないがこれは貯金が底をつきかけている現状に救いの手を差し出されているようなものだ
しかも規約を読んでいくと応募資格があるらしく独身男性しか応募できないとのことだった
ドンピシャだ。
しかし疑問が残る。こんな都合のいい事があるのだろうか、詐欺の可能性だってある。広告だって言っちゃ悪いがかなり胡散臭かった
金がないからふんだくられる心配はないと思うが面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ

(うーん…)

こうして暫く迷った結果、自分には失うものはないと判断し半信半疑で抽選に応募した

(まぁ当たらないよな…)

そう思いつつ眠気に襲われ布団で眠りについた


それから二週間後ーーーー

ピンポーン

抽選のことがすっかり頭から抜け落ちたある日、陰鬱とした汚れた部屋にインターホンが鳴り響いた

最初は無視しようとしたがあまりにも何度も鳴る為、渋々玄関に出るとそこにはメイド姿をした女性が立っていた。
メイド姿という身なりに度肝を抜かれたが、それ以上に彼女の顔立ちに驚いた。
綺麗でさらさらしてそうな白髪にクリっとした大きな目、きめ細かい白い肌そして人形のように整った顔立ち。
こんな美人を見るのは生まれて初めてかも知れない。

「は、はい…どちら様でしょうか…」

久しぶりに声を出したせいと美人を相手にする緊張のせいか変な声が出てしまう。

「…様でしょうか?」
透き通るような綺麗な声がそう尋ねてきた

「はい…そうですが…」
「私こちらから参りましたキキーモラと申します」

丁寧に名刺を差し出され受け取ってみると『株式会社メイド派遣サービス』なる見覚えのある会社の名が書かれていた。

「今回は厳選なる抽選の結果、ご主人様のお世話をさせていただくことになりました。よろし
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