第2話 Kinky Kitty Catie 野良猫のダンス Aパート

穏やかな春の日差しが差し込む、朝7:30AM。
 どこからか漂ってくるコーヒーの香りで、クリスは目を覚ました。
 ベッドの中で寝返りを打つと、隣には1人分の隙間。いつも早めに起きることを心がけているクリスだったが、今日は彼女の方が早起きだったらしい。
 キッチンから聞こえてくるのは、コーヒーの湯沸かし器の音と朝のニュース番組、それと彼女のご機嫌な鼻歌。最近ハマっている女性歌手の曲だった。
 もうベッドから起き上がってもよかったが、クリスはあえて毛布をかぶり直し、枕に顔を埋める。こうしていれば、そのうち彼女が起こしに来てくれるのを知っているからだ。
 目を閉じて待つこと数分。やがて、キッチンから寝室へと向かってくる足音が聞こえてきた。小気味良いそのリズムは、こんないつも通りの朝にこの上ない幸せを感じさせてくれる。足音は、寝たふりをするクリスの真後ろで止まった。
「…朝ごはんだよ〜?」
 そっと耳に口を近づけて囁く恋人の声に、クリスは寝返りで応えた。仰向けになり、鮮やかなストロベリーブロンドと猫の耳を持った彼女、ケイティの顔を見つめ返す。
「なんだ、起きてたの?」
「おはよう、ケイティ。お目覚めのキスは?」
「も〜、昨夜も散々シたでしょ?」
 そう言いながらもケイティはベッドに腰を下ろし、顔を近づけてクリスの唇と軽いキスを交わした。



 クリスはベッドから起き上がると、真っ先に寝室の隣の書斎に向かう。いくつものモニターが取り付けられたパソコンを起動させると、ニュースサイトで今朝の株価動向をチェックする。個人投資で生計を立てていくと決めて以来、これがクリスの日課だった。チャートを見る限り、株式市場にはさしたる混乱もなく、特に急ぎの対応を取る必要もなさそうだった。念のため為替相場もチェックした後、画面のスイッチを切る。
『…昨晩から降り続いていた雨は今朝6時頃に上がり、現在のエンパイア・シティは晴れ、気温も71°Fと、春らしい穏やかな陽気となりました。今日はこの後も天気は晴れ、気持ちの良い一日となるでしょう。続いて、週間予報です…』
 顔を洗ってダイニングへ向かうと、ロングスカートに薄手のジャケットという姿のケイティが、淹れたてのコーヒーをカップに注ぐところだった。スカートの端から覗く尻尾が左右にユラユラと揺れる。リビングに置かれたTVからは気象予報士の甘い声が流れ続けていた。
 クリスはケイティの背後に歩み寄り、その肩に手を置きながら声をかける。
「今日は朝出勤か。シオンたちとは会うのかい?」
「んー、わかんない。特に約束はしてないけど、向こうから誘われるかもしれないし…あ、それもう持っていってくれる?」
「わかった。…最近頻繁に会ってるみたいだけど、ずいぶん仲がいいんだな」
 皿に盛られた2人分のハムエッグをテーブルに並べていくクリス。自分の椅子に座りながら、棚から取り出したパンをトースターにセットする。
「前に会ってたのはいつだったっけ?」
「きの…あ、えーっと…3日前かな」
「ああ、イーストサイドパークの時か」
ミルクを注ぎ終わったコーヒーカップをテーブルに置き、ケイティはクリスの向かいの席に着いた。
『…州道94号線は、現在工事のためチェスナット・ヒル方面が4マイルの渋滞。また、ジェファソン・ブリッジでの昨晩の事故の影響で、現在全車線が通行止めとなっています…』
クリスにとって株価情報ほどの意味を持たない気象情報も交通情報も、心地よいBGMとして耳を通り抜けていく。
コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、クリスはチラリと向かいに座るケイティを見やった。料理もさることながら、カフェで働くケイティが淹れるコーヒーの味は絶品だった。コーヒーはブラックでしか飲まなかったクリスが、カフェラテなど甘めのものを好んで飲むようになったのはケイティと付き合い始めてからである。
 先にハムエッグを食べ始めたケイティの顔を、クリスはじっくりと眺める。接客業に従事しているだけあって、ケイティはメイクが上手かった。元々整った目鼻立ちが、チャームポイントのグリーンの瞳を際立たせるメイクでより一層可愛らしく見える。彼女が気にしている顔の小さなそばかす(クリスはそこも気に入っていたが)も、ファンデーションで完璧に隠されていた。クリスは一度だけ、カフェで働く彼女の姿をこっそり覗きに行ったことがある。エレガントな制服に身を包み、誰に対しても愛想よく接客するケイティは、間違いなく職場で一番輝く人気者だった。そんな彼女が自分の恋人であるという事実に、クリスは胸が熱くなるのを感じたものだった。
「…なあに、そんなにジロジロ見て」
「いや、ちょっとね…」
クリスは頬杖をつき、抑えきれない喜びを顔に浮かべた。
「幸せだな、と思って」



 その時、テーブルの端に置い
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