1日目
私がいつも根城にしている廃墟をウロウロしていると、いかにも道に迷いましたと言わんばかりの冒険者に出会った。
見た所、貧相な格好でふらついているが故になぜこんな山奥の廃墟に来るか気になった。一瞬声を掛けるか迷ったが、好奇心には勝てなかった。
「あははは!!こんな所に何をしに来たのだ人間よ!ここは我の縄張りであるぞ! 早々に立ち去れい!」
なぜこんな馬鹿みたいな台詞を恥ずかしげもなく吐けるのか、私自身分からない。
夜の枕に顔をうずめて死にたくなる時もあるが、きっと性分だろうから仕方ない。
「あ、どうも」
意外にも冷静に対処されて泣きたくなる。
鉈で頭を掻っ捌きたくなるテンションの落差だ。
だがそれにもめげずに私が青年を追い出そうとくっついていると、やはり落ち着かない様子だ。
そりゃあ鉈を持ったかわいい女の子がくっついていれば気になるってもんよ。
「凄い歴史を感じる廃墟だなあ。ここに住んでいた人はどんな思いで暮らしていたのか、とても興味深いよ」
「えぇ……」
全然気にしてなくないこの人?
私を恐れるどころか、美術館の添乗員にでも話しかけるが如く紳士的だ。
いや私は説明係じゃないんですけど!
廃墟ツアーのガイドじゃないっての!
「……大昔に国の王様が別荘として家来に建てさせたんだって。でも戦争が激化して建築も頓挫して、数年したらもう廃墟だったんだとさ」
「へええ。物知りだね」
気づいたら口が勝手に開いて語り出してしまった。
いやだもう、この人といると調子狂う。
鉈でかち割りたい。
「で、ガイドさんの名前はなんていうの?」
やっぱりガイドだと思ってやがった!こいつスイカ割りのスイカ代わりに使いたい。
それか薪割りの薪代わりに使いたい。
「レリーだよ。名乗るからにはあんたも名乗りなよ」
「リズって言うんだ。一応冒険家やってる」
何して生計立てているのかだけ気になったけど聞かなかった。私は大人だからプライバシーには気を使うのだ。
たぶんこの人にはそんな気遣い死ぬほど無駄だろうけど。
「そっか。で、リズ。日が沈むからそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。もう日が沈むし、テントに泊まろう」
おいおい居座る気まんまんじゃないか。
まあ確かに腐っても皇族の邸宅だから雨風は凌げるだろうけど。
私みたいな危険な存在がいる事に対して危機感覚えないのかね。
「……なあなあ。本当に泊まる気か?この辺魔物とか出て危ないんだよ?」
「その時は教えてくれ。すぐ逃げるから」
いやいや!私はいつの間にリズさんの仲間になったんですか!私が敵を呼ぶとか考えないの!? まあぼっちだけど!ぼっちキャップだけど!
「……変な人間」
気を削がれて付き合いきれなくなった私はテントから距離を離れて根城に戻る。
妙に気になるけど、明日にはもういなくなるだろう。
そして、また私の天下が始まるのだ。
2日目
天下は始まらなかった。
「いやあよく寝たなあ。今日はどこまで探索しようかな」
ほけーっとしてるリズに気付かれないように尾行するもすぐに見つかった。何か人一倍気配には敏感らしい。変な所でスペック高いな。
「あ、帽子が赤いガイドの子だ」
またリズは私をガイドさんだと思い込んでいたので、ガイドさんじゃなくてレリーだと主張していたら数分無駄にしてしまった。
リズの動向を眺めていたら、そこらの景色の写真を撮ったり、山菜を収集したり、マイペースに廃墟探索を楽しんでいる。
邪魔する気にもならずぼけっと見ていると、ちょうど昼に差し掛かった辺りに声を掛けられる。
一応私の事を認識しているらしいが、面倒事なら容赦なく鉈を振りかぶる。
「昨日寄った町でご飯買ったんだけど一緒にどう?」
「ご、ご飯? 魔物の私と?」
「うん」
確かに腹は減ってきたし魅力的な提案ではあるけど、どうせそんな事言って毒でも入れているのだ。
油断するな。ここは戦場だ。
「ああ、まあ、旨そうなら食べる」
「良かった。隣おいでよ」
まだ食べるとは言ってないのに笑顔を浮かべるリズ。ああ断り辛い。断り辛いなあもう!
リズは背負ったバックパックから中ぐらいの大きさの箱を取り出して、蓋をあける。
そこには様々な種類のサンドイッチがきっちり並べられており、ほのかに香る麦の香りが食欲を静かに湧き立たせる。サンドイッチなんて何週間、いや、何ヶ月ぶりだろう。
町を歩いていた時にパン屋のおじさんに貰ったくらいかな。貰うというより、差し出すみたいに怯えていたけど。
「食べ方分かる?」
馬鹿にしてんのかこいつは。
まあでもサンドイッチを目の前にして無意識にうろたえていたのだろう。
奇妙に思うのは仕方ないか。
見たところ禍々しい色をした劇物は入ってないし異臭もしない。
「不安なら僕が先に食べるから、どれ食べるか選んでよ」
あ
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