多くの人が賑わう町中から少し離れた森の中。
一人の少年がカゴを片手に枝々の根本に生えたキノコを摘んでいく。
少年はキノコを売って小遣い稼ぎをしており、植物図鑑を片手に食べられそうなものを探している。
最近では図鑑を使わなくてもどれが毒を持っているかは分かるようにはなったので、半人前は脱出できたと言えるかもしれない。
そして今日は秋のシーズンにしか生えないと言われる香り高いキノコの群生地に向かっていた。
太陽は雲に隠れ、風もなく、穏やかな気候だった。
目当てのキノコはなかなか見つからないが、そこそこ良い値で売れるキノコを抜き取り、カゴの中身は次第に膨れていった。
しかし、少年はさらなる収穫を求めて普段行かない森の奥地へと足を踏み入れる。
森の奥地では凶悪な魔物がひしめいていると町の誰もが理解していることだが、少しくらいなら大丈夫だろうと軽んじる少年がそこにはいた。
じめじめとした地帯を伸びきった草を掻き分けながら、腐った枝や木の根元を探していく。
探し始めてから30分は経っただろうか。ある草を掻き分けた時に、目当てのキノコが腐った枝に繁殖していた。
「あった!」
思わず声が出てしまうほど興奮し、すぐさまその場に近づいた。
少年は宝の山からもくもくとキノコを採取し、ついにはカゴがキノコで一杯になった。
これだけあればしばらく遊んで暮らせるーー
そんな欲望が少年の頭に思い浮かぶ。
荷物をまとめ、さっさと町へもどろうと振り向いた時、今まで全く揺れなかった木々がさわさわと揺れ動いている。
風も吹いていないのに、なんだか不気味だった。
ここは凶悪な魔物が出ると言われる魔境の地…。
少年はそのことをあまり信じてはいなかったが、長居はしたくない居心地の悪さを感じていた。
少年の胸まである草を掻き分け、歩を進める。
空耳かもしれないが、幽霊のような声が辺りに響き渡る。
思わず身体を反応させ、辺りを見回してみるが、人影はなかった。
こうなってくると一層気味が悪くなり、自然と足の進み方も速くなる。
目印として大木に傷をつけた場所まで戻った。
その時、少年の耳に妙な音が入り込んできた。
何かと思って振り向いてみれば、遠くの草が激しく揺れているのが目に入った。
その揺れは異常なスピードでどんどん少年に迫っていく。
草に隠れて姿は確認出来ないが何かとんでもないものが少年に向かっているのはあきらかだった。
このまま逃げても逃げ切るのは無理だと思い、少年は大木に登り始める。
高い所に身を置けば魔物が少年を襲おうとしても、魔物が高いところに行ける術はないと考えたからである。
激しい草の揺れは大木の前でピタっと止まり、異様な静けさの後にその身を晒す。
「ひぃ……!」
少年が見たものは間違いなく魔物だった。
蛇のようにうねった身体に、硬そうな鱗で覆われた深い緑の身体。
そして人間の女性のような上半身を兼ね揃えていて、初めて見るその魔物に、少年は言葉が出なかった。
というのも町で語られている極悪非道な魔物、ワームに似た箇所が多すぎたのだ。
確か噂では獲物を見つけると執拗に追いかけ、疲れきったところに巻き付いて全身の骨をバキバキに折ると聞いた事がある。
そして無慈悲に獲物の四肢を食いちぎって、苦痛に悶えている所を頭から咀嚼される…考えただけで身震いするような凄惨な話だ。
「おいしそう……おい……しそう……」
涎を垂らさんばかりの欲望に忠実な顔に戦慄を覚える。
捕まれば、噂通りバクリと食われて、絶命するという嫌なイメージしか湧いてこなかった。
見たところお腹が空いているから、何か食べ物をあげれば見逃してくれるかもしれない。
そうは言っても、少年の手にはカゴ一杯のキノコのみ。
町まで持ち帰ることが出来れば多額のお金と取引できるので気は進まない。
ワームは痺れを切らしたのか、大木に体当たりをし始める。
そんなことをしてもそうそう折れることなどないと鷹を括っていたが、次第にミシミシと嫌な音を立て始める。
立派な二角を木に何度も突き刺し、切れ込みを入れているようにも見える。
それが偶然の産物かどうかは分からないが、大木へのダメージは著しかった。
このままでは死ぬ。
そう思い、少年はキノコの入ったカゴごとワームに投げた。
カゴはワームのそばにポトンと落ち、ワームの視線もカゴに移る。
興味津津といった様子で、華奢な手でひょいとカゴを拾いあげる。
「お、お腹空いてない?それ、あげるから見逃してくれないかな……」
ワームは、んむうと首をかしげると、カゴの中を乱暴にまさぐり、キノコを口に放り込んだ。
毒キノコでも入っていれば一矢報いる事ができたかもしれないが、今となってはもう遅かった。
もしゃもしゃと顎を上下に動かすと、みるみるうちに表情が暗くなっていく。
「
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