魔物娘と年末

「.........。」

今、僕こと大学生の小野剛(おのつよし)は寝ている。
布団の暖かさを少しでも逃さないように、くるまりながら寝ている。
後、布団から出たくないこともあった。だって、布団の外は絶対寒い。わざわざ布団の温もりを捨てて、外の寒さを味わうという愚かな行為は、誰だってしないだろう。
このまま布団の中で、一日を過ごしてみようか。大学は冬休みだし、外へ行ってもやることがない。
そう決めつけようとした時だった。
不意に、枕の側に置いてあった目覚まし時計がけたたましく鳴り、寝続けることを阻害される。

「......んん。」

僕は、邪魔されたことに不機嫌になりながらも、目覚まし時計を止めようと布団から手を出す。
布団の外は予想以上に寒く、布団の中で暖まった手が急速に冷えていく。
僕は、布団の中に手を戻したい衝動に耐えつつ、手探りで目覚まし時計を探していく。目覚まし時計は、大体同じ場所に置いてあるので、探すのは容易だった。
すぐさま、小刻みに震えて音を出す目覚まし時計が、僕の手に当たる。僕は上のスイッチを押し、その音を止ました。
静寂が戻ったので、布団の中に手を引っ込める。そして、二度寝をしようと敷き布団に、横向きで体を預ける。
しかし、僕はある大事な事を思い出した。

「.....今、何時だ?」

それは、目覚まし時計のけたたましい音を止めるだけで、現在の時刻を確認していなかったことだった。
正直、もう布団の外には手を出したくなかったが、覚悟を決め、手を出す。
そして、先程止めた目覚まし時計を掴む。
その目覚まし時計を枕の側まで持って行き、顔を上げ、寝ぼけ眼で時計を見る。短針と長針が、共に12と刻印されているところを指していた。

「12時...、もうお昼なのか...。まぁ、昨日はあんだけ騒いだんだから、仕方ないか...。」

そう言いながら、布団から出ようと床に手を着く。できればこのまま布団の中で一日を過ごしたいが、飯を食べずに寝続けるということは無理だろう。やりたいこともあるし。
しかし、いざ起き上がろうとすると、胴回りに抱きついている大きな何かが力を強くする。
なんだ、まだ寝ていたのか....。 そう珍しく思いながら、布団をめくる。

「んー.....。つよしぃ....。」

そこにはもこもこの手足を持ち、申し訳程度に女性の部分を隠す体毛が生えている、褐色肌の巨乳なイエティ」、僕の腹に顔を埋めながら、心地よさそうに眠っていた。
この魔物娘が、僕の通っている大学の同級生であり、彼女である山本薫(やまもとかおる)だ。

「ほら、薫。そろそろ起きないと。」

僕は彼女起こそうと、彼女の体を揺さぶりながら声を掛ける。

「んん.....?今何時....?」

眠そうに目をこすりながら、時間を訊いてきた。時間は先程確認したとおり、午前12時。僕達がいつも起きている時間よりは、大分遅い。

「もう12時だ。」
「え、もうそんな時間なの...?」

僕は分を省略して、彼女に時刻を伝えた。
すると、眠そうなのは変わりないが、彼女は目をぱちくりさせながら聞き返してきた。

「うん、もうそんな時間。そろそろ起きなきゃね。」
「うん....分かった...。」

僕が起きるように促すと、彼女は了承しながら僕に抱きつく力を強くした。
ちょっと待て。何で起きようとするのに抱きつくのんだ?

「どうしたの、薫?起きるんじゃあなかったの?」
「....して。」
「へ?」

僕が遠回しに、何故抱きついたの訊くと、彼女はボソボソと何かを呟いた。
それが聞き取れなかった僕は、何を呟いたのか彼女に聞き返す。すると、彼女は、僕の耳元まで顔を寄せ、眠たそうな声でこう呟いてきた。

「だっこ、して。」

そういえば、休みの日はいつも彼女を抱きかかえて起こしていたな。眠り過ぎてすっかり忘れていた。
そのことを思い出した僕は、彼女の胴回りに手を入れる。そして、力を込めて持ち上げた。

「よいしょっと!」
「うわぁ!」

自分の上半身の高さまで勢いよく上げる。彼女はそれほど重くはないため、持ち上げることは容易だった。
彼女はその行動に驚きの声を上げたが、すぐさま、僕の腰に足を絡ませてきた。

「えへへ
hearts;剛、あったかい!
hearts;」
「ハハ、薫も暖かいよ。」

互いに、体の温かさを全身で受け止めながら笑い合う。実際、抱き合っている薫と僕の温度は、外の寒さを感じさせないほど暖かかった。

「ねぇ、剛?」

しばらくして、彼女が上目使いをしながら、甘い声で僕の名前を呼んできた。そんな目で見つめられ、しかも甘い声で呼ばれるなんて、起きたばっかりの僕には刺激が強すぎる。

「うん?」
「ん
hearts;」

頭がクラクラしそうになるのを我慢しつつ、僕は
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