「ここは...どこなんだろうか?」
そう言いながら、僕ことエーミール・パークライナーはカンテラを右手に持ち、月明かりがなければ一寸先も見えない真夜中の森を彷徨っていた。
周りを見てみても、どれだけ動いてみても、同じ光景しか見えてこず、人影や小屋らしき明かりは見えてこなかった。誰でもいい...誰かいないのか?
そう思い、僕は必死に助けを呼んだ。
「誰か!誰かいませんか!?」
だが、返ってくるのは風で巻き上げられた木の葉の音と、その後の静寂だけだった。
「はぁ...。誰もいないか...。」
それもそうだ。僕がいるこの場所は森の奥深くであり、村人がここまで来ることは殆どないからだ。
その事実を知った僕は、近くにある適当な木を背にし、ランタンを地面に置き、項垂れるように座り込む。
「はぁ...。これからどうしようか...。」
そう弱々しく言いながら、僕は空を見上げる。こんなに暗い森でも星は明るく光っていた。
しかし、僕はなんて愚かしいことをしてしまったのだろう...。行ってはいけない森に行き、挙げ句の果てに迷ってしまうなんて...。
しかも、僕がこの場所に来た理由は、とてもばかげた理由だった。
それは、父さんが子供の頃から言っていた、「守り神」と呼ばれる存在を見つけたいからだった。
この森の奥は、昔から「守り神」と呼ばれる存在がおり、近づくと災いが起こってしまうとして、村人から恐れられていた。
父さんも、その存在を恐れており、この森に薪を取りに来たときは、いつも僕に森の奥に行かないように注意していた。
しかし、僕はどうしても見たかった。その誰も見たことがない不可思議で奇妙な存在が僕の好奇心をくすぐったのだ。
そして、18才になったばかりの今日の晩、父さんが寝た後、僕はベッドから抜け出し、物置小屋で父さんがいつも使っているランタンを取りだし、火を付けて、真夜中の森に行った。
最初はすぐ見つけられると高を括っていた。しかし、森の奥に近づくにつれ、周りを見ても同じ光景しか広がらなくなり、最終的にこの様に迷ってしまったのだ。
「守り神」といういやしない存在を探し出すために森に入り、何も見つけられずにそのまま迷うとは。まったく、馬鹿げた話である。だが、そんな事を今更悔やんでも仕方ない。
そう考えている時、僕のお腹の辺りから「グー」という音が鳴った。
「そういや、腹減ったな...。」
夕飯を食べて何時間が経っているのだろうか?2時間?3時間?いや、それ以上かもしれない。
そう思うと、急に食欲が増してきて、何かを食べたいと欲求が僕の頭の中を駆け巡った。
何か食べたい。何でも良い。食べられるものなら何でも良い!そんな乞食のような思考になっていった。
そういや、今晩の父さんの料理はとても美味かったなぁ...。何でも亡くなった母さんから教えて貰った自信の料理だったとか...。
母さんは僕を生んでまもない頃に亡くなってしまったらしい。そのため、僕は母親の顔を見たことがなく、ずっと父さんの手で育てられたのだ。
父さんはとても優しかった。いつも僕の側で話していて、色々な事を教えて貰った。この森に生息する生物とか、狩りの仕方とか。
そういや、子供の頃、僕が父さんと一緒に食器を洗っているとき時、僕が誤って皿を床に落とし、割れてしまったことがあった。
僕は父さんに怒られるかと思い、涙目になりながら俯いた。
だが、父さんは怒ることなく、僕の頭に手をやり、「誰だってこういうことはあるさ」と言って励ましてくれた。
そんな父さんが大好きだった。とても楽しい日々だった。けど、そんな日々はもう来ないだろう。
だって、もう二度とこの森から出ることが出来ないからだ。
出られないということになると、父さんはどうなってしまうのだろうか?
父さんは母さんが亡くなってしまった後、明るい性格の父さんが一気に暗くなってしまい、元の明るさを取り戻すしたのは、3年後だと聞く。今でも母さんの話題を出すと、父さんの顔は曇ってしまう程である。
そんな父さんが僕を失ってしまうとどうなってしまうのか?自殺でもするのではないか?そんな不穏な考えが僕の頭の中を過ぎる。
すると、僕の目尻から何か生暖かい液体が垂れてきた。
それに僕は驚き、目尻を指で拭う。それは無意識の内に僕が流していた涙だった。
「涙...?」
何故流したのは分からなかった。ここに来てしまったことの後悔からなのか、それともここで飢え死にしていくことが怖いのか、はたまたもう二度と父さんには会えないからなのか。
いずれの理由にしても、僕が涙を流していたことは明確な事実だった。
その事実を確認すると、急に堰を切ったように、僕の目から涙が溢れ出してきた。
「な、なんで...?なんでこんなに涙が溢れ出してくるんだ...?」
理由は
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