大切なもの アラクネのその後

「はぁ.....。」

夜、鈴虫や魔物娘の喘ぎ声が響く中、私は一人寂しく木と木の間に巣を張り、寝転んでため息を吐く私ことアラクネのアラーニャ・アルカーノは、あることで落ち込んでいた。

「何であそこで川に飛び込むかなぁ...。」

それは、以前通り掛かった旅人を旦那様にしようと追い詰めた時、逃げられたことが原因だった。
私は逃げられないように崖まで追い詰めたのに...。あろうことか、あの旅人は「君は良い女性だけど、僕には旅を続けなくてはいけない理由があるんだ。」とか言って崖下の川に飛び込んでいったの。
何が良い女性よ!良い女性と思うならば私に黙って巻かれてなさいよ!コンチクショー!
そんな行き場のない怒りを巣を殴りぶつけていく。当然、破れてはいけないので軽気だった。

「はぁ...。あそこで糸を吐いて捕まえていたらなぁ...。」

再度溜め息が出る。それほど逃げられたのが悔しかったのだ。
今鏡を見たらどんな顔をしているのだろう。とても悲しそうな顔をしているのか、はたまた怒りに満ちた表情をしているのか、どっちか分からないが凄い表情をしているのだろう。

「あれから一週間...。誰も来てないわ...。あー、誰か来てちょうだい!」

いつも何年間も待ち続けたのだが、今回は彼を逃した反動で我慢が効かなくなっていた。誰でも良い。私を満たしてくれる人なら誰でも良い!誰か来て!お願い!
そう思った時だった。カサッ...。どこからか草木が揺れる音がした。

「...ッ!?」

その時、私は驚くほど冷静に身を潜め、声を出さないようにした。今、確かに音がした。草木が揺れる音だ。
多分魔物ではないはず。この辺の魔物は夜になると眠るか、男と後尾をするからだ。だったら人間?人間がこの近くにいるの!?
そう思った私は感極まりそうだったが、その気持ちを抑え、その音が近づくのを待った。
カサッ、カサッ、カサッ。どんどんと私のほうへ近づいてくる。
そして、その音が私の真下まで来た。その時、私はゆっくりと視線を下に落とす。
そこには、私が求めていた男の姿があった。右手にはカンテラを持っていた。

「男...!」

「ん...?誰だい...?」

彼が上を向いた瞬間、私は心の中で思った声が外に出ていたことに気付く。
あぁ、もう!私の馬鹿!何で声に出しちゃうのよ!これじゃあ、彼に気付かれることなく捕まえる作戦が台無しじゃない!
そんなことを思っていると、彼の方から私に声を掛けてきた。

「あのぉ...。あなたは、アラクネでしょうか...?」

そんな事を言われ、私は心底驚く。何で分かったの!?カンテラを持っているとはいえ、この辺はかなり暗く、この木の上までははっきりと見えないはず...!
何故気付いたのか気になった私は、そのことを彼に訊いた。

「な、何で分かったの?この辺はカンテラを持っていても暗いはずなのに...。」

すると、彼はこう答えた。

「木に登っているということは、アラクネかと思いまして...。その質問をしたということは肯定と受け取っていいんですよね?」

彼は続けてそう訊いてきた。まぁ、私が何故分かったかを訊いている時点認めてるものだし、否定をするつもりは毛頭なかった。

「ええ、そうよ。私はアラクネよ。それを訊いてどうするつもり?」

私がそう答えると、彼のほうから「ヨッシャ!」という声が聞こえてきた。

「何が「ヨッシャ!」なの?」

「あ、いえ!独り言です!」

慌てふためいて彼は答える。「ヨッシャ!」って、どんな独り言なのかしら?

「あのぉ...。すみません、頼みがあるんですけどぉ...。」

彼は頼み事を申してきた。正直、私の正体が魔物と知ってこんだけ話してくる人は初めてだ。

「頼み事?いいわ、言ってみなさい。」

私はその頼みを聞くことにした。多分、糸を分けて下さいとかそんな事を言うのだろう。そう言ったら迷わず私の糸でグルグル巻きにしてやる!
だが、彼の言った頼みは私が予想もしなかった事だった。

「あなたの体を見せてはくれませんか?」

私は耳を疑った。アラクネと分かっていてそんなことを言う男がいるとは思わなかった。

「いいけど、私はアラクネよ。それでもいいの?」

私が憂い混じりにそう言うと、彼は嬉しそうにこう言った。

「いや、あなただから良いんです!ですから、少し見せて頂けますか?」

あなただから良い。そんなことを言われた瞬間、私の体は火照った。嘘をついているかもしれない。けど、彼の

口ぶりからして嘘とは思えない。
そんな事を考えている間に、私の口が勝手に動き出し、こう言い放った。

「え、ええ、見せてあげるわよ。」

そう言った瞬間私は自分の口を両手で覆った。何てことを言ってるのかしら!いや、言ったのは私だけど、自分
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