「ハァ、ハァ、行き止まりか...。しかし...ここまで.....来れば...もう大丈夫だろう...。」
息を切らし、切り立った崖の上にある木陰に座り、何者かが追ってこないかを確認する旅人。彼は、アントニオ・アスタリータ。町を転々とする旅人であり、今日はある町での滞在をやめ、次の町へ向かうべく森へ来ていた。
しかし、あるトラブルが発生してしまい、次の町へ向かうどころでは無くなってしまったのだ。
「クソ...。今日は厄日だなぁ...。」
俯きながら自分の運の無さを恨むアントニオ。
しかし、彼は何に追われているのでろうか?彼が追われることとなった前からお話しよう。
彼が追われる20分前。彼は右手に地図を、もう左手にはコンパスを、背中に荷物を背負って歩いていた。
「この地図を見ると....。この方角をまっすぐだな...。」
彼は地図に書かれている町の方向と方位磁石を交互に見ながら町のある方向を確認した。
この辺の森は同じ光景が広がっているので、地元の人達でしかその違いが分からず、初めて来た人が地図とコンパスを持たずにこの森を抜けることは至難の業であった。
その事を地元の住人から聞いていた彼は、町で雑貨屋で売ってあった森の細部まで書いてある地図とコンパスを持ってこの森に来ていたのだ。
「しかし本当に同じ光景ばっかだなぁ...。地元の人から話を聞いてなかったらどうなっていたか...。」
そんな事を苦笑しながら言う。彼には、このコンパスと地図さえあれば森で迷わないという確固たる自信があったのだ。
しかし、そんな自信はこの後に起こる事件であえなく消え去ることになる。
森に迷うことなく町の方角へ、進んでいくアントニオに対し、突如上から声が掛かる。
「あら?ここまで男の人が来るなんて珍しい...。」
その声に反応し、上を向くと、そこには木と木の間で巣を張っているアラクネがいた。
「や、やぁ...。こんにちは...。」
彼は魔物娘と出会い、その姿に臆しながらも、挨拶だけはしようと思い、声を掛けた。
一方アラクネは、こんな所まで男は滅多にこないものなので彼を自分の物にしようと考え、彼に警戒心を与えてはいけないと思い、挨拶の返しにこう言った。
「あらこんにちは。礼儀正しいのね。ねぇ、あなた?ここまで来て何をしているの?」
そう言って微笑む彼女。アントニオはその彼女の微笑みにどこか不気味な感情を感じつつ、話を続ける。
「それは...ええっと...この森を抜けたら、町があるからそこに行こうとしてたんだ...。」
彼はたどたどしく喋った。それが彼女に対する恐れなのか、それとも彼女美貌に見とれてしまってたのかは分からなかった。
「そうなの...?じゃあ、町へ行くよりもっと楽しいことしたくない...?」
色気がある声を出しながら、木から徐々に下り、アントニオに近づいていくアラクネ。
一方彼は、その楽しいことが大体予測が付き、いつでも逃げられるようにコンパスと地図を懐にしまい、身構える。
「そんなに身構えないで...。ほら、こっちに来て...。」
並大抵の人ならその囁きで落ちてしまうほどの色気だった。しかし、彼は旅の中で幾度も魔物娘からの誘惑を振り切ってきたのだ。初めの頃は誘惑に負けそうになったが、旅を続けたい一心で何度も振り切ってきたのだ。
アントニオはその誘惑に対し、おもむろに後ろを向き、足を上げ、手を一生懸命に動かし、逃げだした。
「逃げるんだよォ!!」
一方アラクネは自身の誘惑を振り切れる相手がいるとは思わなかったので、一瞬逃げる彼を見ながら動けなかったが、彼が見えなくなった後、すぐに木に登り、彼の追跡を開始した。
「逃がさないわ!私の旦那様!」
そういう訳で、今、アントニオは魔物娘アラクネに追われているのであった。
「よし、息が整ってきた。さて、行くか。」
木陰で休んだおかげで息が整った彼は、立ち上がり、懐から地図と方位磁石を取りだし、町の方角を確認する。その時だった。
「うふふ...♪見つけたわよ、旦那様...♪」
不意に上から声が掛かる。アントニオは大体誰が呼んだかは予測が付き、上を向くと、彼が思ったとおり、あのアラクネがいた。
しかし、彼は彼女が上にいたことよりも、彼女が言った言葉に反応した。
「え、旦那様って誰のことでしょうか?」
多分自分のことだと思いつつ、すっとぼけて周りを見渡す。
「とぼけなくてもいいのよ...?」
そう言いつつ、彼女はゆっくりと木から下りてくる。
そんな彼女に対し、アントニオもゆっくりと後ろに下がっていく。
「何で逃げるのぉ?」
彼女は甘い声を出して、彼に訊く。
「それは...。まだ旅を続けたいからさ...。」
そう彼は答えた。
「そん
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