-ここは...どこだろうか...?-
目覚めてアベル・アッカーソンはそう思った。見知らぬ天井、岩壁に立て掛けられている絵や本棚、奥の方からはグツグツと何かを煮込んでいる音が聞こえてくる。そして自分は誰のかも知れぬベッドの上で寝ている。そして体を起こそうとした時足から鋭い痛みが走る。
-あ、そういや僕は...-
アベルはこうなった経緯を寝起きの頭で必死に思いだそうとした。
彼は町で転々としていた旅人だった。まだ20歳前半と若く元気で満ち溢れていた。
彼はある町での滞在をやめ、別の町に行こうと山を登っていた。だがその山で迷ってしまい、気がつけば太陽が沈み辺りは暗くなっていた。日中にはこの山を抜け出せると鷹を括っていたので、カンテラなどの明かりはまったく持ってきてなかった。なので、手探りで道を探していると暗くて崖に気づかず、足を踏み外し落ちてしまったのだ。
幸い崖はそんなに高くなく落ちた先に草が茂っていたため、命に別状はなかったのだが足を骨折してしまいどうにも歩けない。
そこで助けを呼んで叫んでみても夜の山に近づく者はほとんどおらず旅人は覚悟を決め目を閉じようとした時だった。
どこかで女性の声が聞こえた。そこで一途の望みをかけ全力で叫び助けを呼んだ。
そしたらこちらに気づいたらしく向かってくる。足音はまったく聞こえず何かを引きずっている音が聞こえたが、アデルは自分は助かると安堵していたのでその音にはまったく疑惑を持たずただただその女性が来ることを待っていた。
そしてその女性らしき人影が彼の目の前まで来たときに、その女性の目があると思われる場所から緑色の光が放たれ、そこでアベルは意識を失った。
そこまで思い出したアベルはもう一度現状を確認する。多分その女性に助けられたのだと思う、あの緑色の光の事は気になるが、今は助けてくれた彼女に感謝をするべきだろう、そう考えていると奥の方から誰かが近づいてくる音がする。
彼女にお礼をするべきだと思い、奥の方へ顔を向ける。そこから出てきたのは「人間」の女性ではなかった。
人間の女性の上半身と蛇の下半身を持っている女性。魔物娘だった。
「ラミア...?」
アベルが率直な感想を述べる。
「確かに似ているけど違うわ。私はメドゥーサよ。」
そう彼女は言った。確かに外見はラミアそっくりだが、よく見たら髪の毛の結っている先が蛇でできており、その蛇達は一つ一つがシューシューと舌を出し入れしている
。
「メドゥーサ...?聞いた事がないな...。」
「そうでしょうね。私たちの種族、数が少ないのだから。」
「そうなのか...。」
「で、あんたは何であそこで怪我を負ったわけ?」
メドゥーサは指を指しながら聞く。
怪我をした経緯を聞かれたアベルはここに運ばれてくるまでに経緯を話した
。
「はぁ...?あんた馬鹿じゃないの?明かりの一つも用意もせずこの山を登っていたの?」
鋭い目つきを向けながらアベルを説教する。アベルは何も言い返せず頭を下げ説教を黙って聞いていた。
「まったく...。この辺は崖が多いというのに手探りで道を探そうなんて馬鹿にも程があるわよ。あの時私が通りがかっていな
かったら死んでいたわよ。」
「面目ない...。」
アベルはうなだれながらメドゥーサに謝った。
「はぁ...別に謝らなくて良いわよ。それより足の方は大丈夫?まだ痛む?」
相変わらず鋭い目つきを向けていたが、心配する気持ちは本当だった。
「ああ、大丈夫だよこんな怪我。ほら、イテテ...。」
アベルは足の怪我なんて屁でもない事を示すように足を空高く上げてみたが、その瞬間鋭い痛みが走り顔をしかめる。
「ほら見なさい!まだ治ってないじゃないの!」
メドゥーサはアベルの苦悶の表情を見た瞬間に心配そうな表情を浮かべる。
「心配してくれるのか...?」
アベルがそう言った瞬間メドゥーサは慌てふためいた。
「ば、馬鹿じゃないの!?ただあなたの馬鹿さ加減に呆れてただけよ!」
そう言いながらそっぽ向く。しかし彼女の頭に生えている蛇達は心配そうにアベルの方を伺っていた。
「ハハハ、迷惑掛けてすまない。」
「何笑ってるのよ...。言っとくけどその怪我は治療したわ。でもまともに歩けるまで二週間は掛かるわよ。」
「え!?骨折って普通は三ヶ月ぐらいするんじゃあ...。」
「私たちの魔力を甘く見ないでよ。骨折程度の傷ならお茶の子さいさいよ!」
アデルは威張るように言った。
「そうなのかぁ...。けど、歩けるまで二週間掛かるのか...。悪いんだけど、治るまでここに住まわせてくれないか?」
「言われなくてもそうするつもりだったわよ。このまま追い出してどこかでのたれ死んでしまったら私の気分が悪くなっちゃうわ!」
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