帽子屋のように気が狂っている

「ここは...どこなんだ...?」

開口一番に私は呟いた。
奇妙な形をした植物が生えている草原。そこに建てられているドールハウスのような可愛らしい建物。辺りに散らばっている大きなトランプのカードや積み木。
まるで童話に出てくるような世界。そう言える光景が私の目の前に広がっていた。

「なんだ...ここは...?」

私はその光景が信じられなかった。なぜなら、あまりにも現実とかけ離れているからだ。誰だってそうなるだろう。
夢なのだろうか?  そう思って目を瞑り、両手で頬を強く叩く。だが、目の前の光景が消えることはなかった。

「夢ではない...のか...。」

その事実に肩を落とし、地べたに座り込む。夢だったら、どれだけ良かっただろうか...。
この世界に、私が知っているものはない。あるのは自分の正常を疑ってしまうほどの、狂った世界だけだ。
しかし、何故こんな世界に来てしまったのだろうか?今でも良くわからない。

確かこうなる前、私は大学の用務員の仕事を終え、暗い夜道を一人で歩いていた。月明かりがその道を照らしてくれて、懐中電灯などの明かりがなくても十分前が見えるほどだった。
程なくして、月が雲に隠れてしまった。辺りは真っ暗になり、一寸先も見えなくなってしまった。
他に道を照らす物もないし、月が再び照らしてくれるのを待とう。 そう気楽に思いながら、歩くのをやめ、気長に待った。
しかし、一向に月は雲から出ては来なかった。むしろ、周りが更に暗くなり始めているという感覚に襲われた。
これでは家に帰れない。 そう困っていると、不意に、眩しい光が目の前に現れた。
私はその光を、誰かが私を照らしてくれているのだと思い、その光に向かっていく。今思えば、あの光を疑っておくべきだった。
ある程度近づいていくと、急にその光が大きく広がった。
私は目を瞑り、手を顔の前に出して、その光が収まるのを待つ。気がつくと、先程の光景が私の目の前に広がっていた。

以上、私がこの世界に来る前の回想だが、やはり良く分からない。
何故、まったく月が雲から出て来なかったのか? そして、私をこの世界に迷い込ませたあの光はなんだったのだろうか?
そんな疑問を抱いていたが、考えても何も分からないし、気休めにもならなかった。

「...これからどうしようか...。」

この世界を眺めながら、そう呟く。元いた世界に戻りたいが、それは叶わぬ願いだろう。第一、この世界に出口があるのかどうかさえも分からない。
ならばこの世界を探索しようか。しかし、この世界ことは全く知らないし、何が出るのかも分からない。
けど、こうやって座り込んでいても何も変わりはしない。しかし、無闇にこの世界を歩くのは...。
この世界を歩くか迷っていると、不意に香しい香りが漂ってきた。
私はその臭いに驚き、辺りを見渡すが、当然誰もいない。
誰か近くにいるのだろうか...? そう思い、地べたに座るのをやめ、その臭いがする方向へと足を進めた。






しばらく香ばしい臭いを追って歩いていると、恐らくその臭いの元となる場所へとたどり着いた。

「なんだこれは...?」

そこには、何十人が一斉に食事が出来るほどの長テーブルと、その横に等間隔に置かれている腰掛け付きの椅子があった。
純白のテーブルクロスが引かれ、その上には、誰かが使ったであろうと思われる純白のお皿、ティーカップ、ティーポッドが置かれていた。
さっきまで漂ってきた香りは、あれから漂ってきているのか...? そう疑問を抱きつつ、テーブルに置いてあるティーポッドとティーカップを調べてみる。
すると、さっきまで漂ってきた香りは、この中に入っている紅茶のものだということが分かった。
さっき漂ってきた臭いはこれだろう。 そう思いながら、ひとまず安堵する。
しかし、新たな疑問が出てきた。何故こんな場所にテーブルが置かれているのだろうか。何故食べかけのお皿や、飲みかけの紅茶があるのだろうか。
それが指し示すことはただ一つ。誰かがここにいた。そうとしか考えられなかった。

「けど、一体誰が...。」
「おや、見ない顔だね?」
「ッ!?」

不意に、後ろから女性の声が聞こえてきた。
私はその声に体を一瞬震わせた後、勢いよく振り向く。一体誰なんだ!?
そこには、マジシャンが被っていそうなトランプの四つのマークを刺繍した緑の高シルクハット、シルクハットにはキノコが生え、「In this Style 10/6」と書かれたハート型の値札が置かれていた。
そして、全体が緑がかった燕尾服、その下には白無地のイカ胸シャツを着ていた。イカ胸シャツは彼女の体にぴったりと合っており、たわわに実った双丘をくっきりと表していた。
ズボンもぴったりであり、ダイヤが刺繍されていた。手には、真っ白
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