狩の成果を背負い、愛剣を片手に歩いていた。
空は、オレンジからピンクへと変わっていく。
実にきれいな光景。西の空には、巣へと帰るのであろう鳥たちが群れをなして飛んでいく。
彼らは、きっとこれから夫婦の時間なのだ。夫婦の時間…思わず口が緩む。
目の端に揺れるのは、あいつから貰った角飾り。これを目にするたびにあいつの顔が目に浮かぶ。
あいつとわたしが夫婦となって、1ヶ月くらいになるのだろうか?旅の途中で道に迷っていたところをわたしが助けたのだ。
助けた礼に、あいつはわたしの夫になった。お披露目の舞台上で喜びに沸きながらこの男はわたしのモノだと他の者たちに見せびらかしていると、あいつも涙を流してうれしそうに腰を振るっていたのが今にも思い出される。
さて…わたしも早く帰ろう…。
丸まった背中をしゃんと伸ばして歩こうとすると…背骨が、ポキッと鳴った。
さて、今日も疲れたものだ。狩の成果もまぁまぁだったし。
肩に手を当ててみると、ずいぶんと凝っているのがわかる。
こんなに疲れたのだ、今日のあいつは一体どんな手でわたしの疲れを癒そうとするのだろうか?
そう思うと自然に足取りが軽くなる。
家の前に着くと、なにかこう…いい匂いが漂っていた。
煙突からは、肉の焼けるいい匂いが…
あいつは肉を熟成させるのがうまいからな…つい、涎が出てきてしまう。
「今帰った!」
「あ、おかえりー」
奥の部屋から、足音をたてないようにすっと我が夫は出てきた。
「おかえり。今日もお疲れ様」
挨拶はすれども、立ち尽くしたまま何もしようとはしない。
わたしは、剣と獲物を置きながら不満顔で言った。
「…お迎えのキスはどうした?」
「え?いやぁ…その…」
なんだかまごついている。いつもならばすぐにでもキスをしてくるというのに…どうしたというのだ?
「それが疲れて帰ってきた妻への仕打ちか!」
「違うよ!今、肉の仕込み具合を見てたから、口の中が…」
「…そんなことを気にしていたのか。構わん!いつもしているであろう?…お出迎えはお帰りなさいのチュゥだと」
「……」
チュッ
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「んふぅん…♪」
一瞬、恥ずかしそうに困った顔などしおって!まったく世話の焼ける男だ。口の中のことなど細かいことに気にしおってからに。
うむ、確かに肉の味がする。どうやら、今日のめしは大層うまい具合になっていそうだ。
けれど、それ以上に…この病み付きになる精の味。今朝、味わってからどのくらいになるか…待ち遠しかったのだぞ?
それなのに…もっともっと味わいたいのに、すぐにやめようとするのだ。まったく夫は、いつまでたってもわたしの心を読むことはできんのか?
許さないと言葉にするよりも早く、抱きかかえる腕の力を強くする。
舌先で遊ぶように舐めあっていたが、吸い込むように夫の舌をわたしの中へと招待してやる。
「ちゅ…ちゅぅ…ん…んん…んっ…」
ふふふふ♪ 吸い込みながら舌を絡みつかせてやると、この男はたちまちうれしそうにキスをしてくるのだ。
わたし達は夢中になってキスをしていたが…
もっとキスを楽しもうと顔を抱きかかえるように手を回そうとしたら、我が夫は鼻をひくつかせるや我に返ったように口を離そうとしおった。
「なに…して…んっ…る?…ちゅ…わたしは…ちゅっ…こんなっ…ちゅ…キスで…んん…はっ…満足…できんぞ?」
「んっ…はっ!…焦げてるっ!の!…んちゅっ!…焦げちゃう…あっ…んんんーーーちゅっ…」
なんだ。肉が焦げてしまうからか…そんなモノ放っておけ!少し焦げたからといって大げさにするものではあるまい。
だが、それでもわたしに抱きつかれながらも暴れるように体をくねらせる夫…
はぁ…まったく…疲れているのだがな…困った夫だ。仕方がないと離してやる。
ダダダダッ!
さっきは音をたてないように歩いてきたが…すごい勢いで台所へと走る夫。
「あーーーーーーー!!」
絶望と諦めにも似た声が聞こえてきた。
そちらに行くと、台所で焼いていた肉を皿にのせている夫が見えた…
口をあんなにあんぐりとあけて…まったくだらしの無い奴だ。
「どうした?肉など少しこげたほうがうまいではないか」
「……少しのこげ?」
恨めしそうにこちらを振り返ったその手元には…真っ黒な塊が…
「……」
…あー…真っ黒こげだな。
「…っ…くっ…」
「え?」
「うっ…く…せっかく…折角いい具合になっていたお肉だったから、一番おいしい状態で食べてもらおうと思ったのに!」
瞳に涙を溜めてそういう夫…すこしやりすぎたのだろうか?
それを見たわたしは、心の中がざわざわした。
…そう!この男の泣き顔は…よいものなのだ。なにか…こう
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