10.川相撲

うちの裏には川がある
たいした水量でゆっくりと流れる川
底まで見えるきれいな川だ
きらきらと光をきらめかせる波・・・
と…黒い影がすーっと川面を通っていった
それは一艘の舟
「一太。漁に出てくっからな?期待して待ってろよ?」
「うん!とぉちゃん!!」
「今日も大漁にするぞぉ」
「うん!頑張ってじぃちゃん!」
じぃちゃんが竹の棒で舟を操りながら笑顔を見せる
よく日に焼けた真っ黒のじぃちゃんととぉちゃん、白い歯を見せ笑いながら通り過ぎていった

うちは漁師
川の魚を獲って暮らしてる
獲った魚を街に卸して生活していた
少し遠くなるが足を伸ばせば海にも出られる
そんなところ
じぃちゃんととぉちゃんの腕にかかれば何でも獲れた
それは、海の衆にも一目置かれるほど…

オイラの名は、一太。とぉちゃんとじぃちゃんみたいな漁師になることを目指している
だから、二人が漁に出てしまうといつも一人で投げ網の練習をしていた
「とぉ!!」
バシャン!
「やぁ!」
バシャッ!!
幾ら練習しても子供の投げる網に引っかかる魚なんていない
きれいな円状に網を広げられればいいのだけれど、そのコツがなかなか掴めない
丸い網の真ん中に紐がある。それをきちんと手に持ち、円の縁に沿って錘が付けられているから、網についている根元をきちんと持って投げないとうまく広がってくれない
「クソー!!」
練習の成果として、漁の後網の繕いが終わった後いつもとぉちゃんかじぃちゃんが網の投げ方を教えてくれる
きれいに広がる二人の網・・・それに比べて…おいらのは…
何度やってもうまくいかない…

「今度こそ!!やぁ!」
バシャン!!
・・・
パシャン…
「え?まさか?!魚?」
何かが掛かったように網の中が動いている…
「…あーーー」
一瞬の喜びも束の間…中に見えたものを見てがっかりした

網の中からは、緑色の腕が伸びていた
助けを求めるようにバシャバシャともがくその腕
「い・・・いっちゃーん!一太ちゃーん解いてーーーー!!」
それはバシャバシャともがき続ける。あんまりもがくと網を傷めるからやめてもらいたいのだけど・・・
「とーいーてーーー!おーねーがーいー」
「・・・」
何も言わずに網を手繰る
「いっちゃん・・・ねぇ…お・ね・が・いっ!」
川瀬に上がったそれ…
「セナ!練習の邪魔すんなって言ったろう?!」
「だぁってぇ。魚獲れないいっちゃんのために一肌脱いでいるんじゃない♪」
「よけいなお世話だ!!」
“セナ”とは・・・瀬菜という名のまぁ・・・友達だ
見た目は、頭に皿があって、背に甲羅…手と足に水かきがあって全身緑色の…カッパというやつだ
小さな頃から、一緒に遊んできた
オイラも漁師になるべくこうして投網の練習をするようになってからあんまり遊ぶことも無くなったが、暇になるとこうしてやってくる
時々、じぃちゃんととぉちゃんの漁を手伝うこともあるらしい
網を仕掛けておいて、川の中からセナが一気に魚をそこへ追い込むのだ
だから、じぃちゃんもとぉちゃんもセナのことを娘のように可愛がっている…
オイラといえば…少し面白くなかったけど…

なんとか自力で網を解こうとしているようだが…ますますもって絡まってしまっている
「あん♪…ねぇ、いっちゃん?色っぽい?」
いろいろなところが網に締められてそんなことを聞いてくる
「知るか莫迦!」
「莫迦って言ったー!ねーぇー!解いてよー」
「解いたら、また!相撲しようって言ってくるんだろう?」
そう、セナが暇な時はいつも相撲をしようって遊びに来るのだ
近くの村のガキ大将も手に負えないセナの横綱っぷりにオイラがどうやって挑めというのだろうか・・・
「うん♪いっちゃんと相撲やってると楽しいんだモン♪」
「オイラはぜんぜん楽しくなんかないよう…」
「ねぇー。解いてー相撲しようよー」
「やだ!」
「ふふーん?いいの?ずっとこのままで…練習できないよ?じいちゃんとおっちゃんが帰ってきてわたしを見たら怒られるよ?」
ふふん…と勝ち誇ったように言うセナ…
確かに、オイラに与えられた網はこれしかなく練習が出来ない。二人がこのセナを見たら…雷どころの騒ぎでは済まないだろう…」
しぶしぶ、セナの網を外してあげた…

「いっちゃーん♪」
「うわわっ?!」
外した途端に抱きついてきたセナ
その拍子に尻餅をついてしまった
気が付けば、目の前にセナの顔がある
四つんばいになってオイラの顔を伺っていた
「いっちゃんとこうしてるとねぇ…なんか、心があったかくなるんだ〜♪」
胸にほっぺたをすりすりと押しつけてくる
「セナ…いいから離れろ〜!」
「いっちゃん、顔真っ赤!」
「いいから!」
顔が熱い・・・
最近のセナはこうして擦り寄ってくることが多くなった
「じゃっ!その代わり〜相撲やろっ♪」
言うが早いか
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