8.その瞳にうつるのは…

澄み切ったソラ…
どこまでも高くを見透かせる
彼方に見えるのは天の川か……
無数の星星の瞬き
雲ひとつない夜空にはそんな輝きしかない…

ヒュルルルル………
         ドドォーン………

星の瞬きに混ざって赤銅色の光が瞬く
しかし、それは一瞬
瞬きのうちに闇に消える

ヒュルルルル………
         ドドォーン………

赤き大輪の花
夜空に瞬いては消えていく…

「……くそっ!まだダメだ!」
夜空に浮かぶ花を見上げて悪態をつく男
打ち上げの筒にひとつひとつ尺玉を込めていく
そうして、また空に花を咲かせていくのだ
「…これは、あそこの星の飛び方が悪いな…」

彼は、花火師だった
名を、清次郎
ここは、辺りに人もいない山の中…
そこには大きな沼があり花火の練習をするのにうってつけだった

ひとつひとつ丁寧に作った花火玉…
それを、筒に入れて打ち上げるのだ

「今日はこのぐらいにしておこう……すっかり冷えてしまった…」
息を吐けば白くなる
今は真冬であった
空が澄み渡りよく見えるこの時期が一番の練習時だった


夏に開かれる街の納涼花火それに向けての調整
職人花火において、腕がよく名も知れていた
しかし、最近は評判が落ちていた
理由は、魔法花火…
人外の法によって編み出された花火
昔からの職人花火が、赤銅色しか出せないのに対して、色とりどりの花火は見る者を魅了した
動きも、まるで意思を持つかのように大空を飛び回る
その人々を魅了する魔法花火に彼は幾度も悔しい思いをしていた



とある日…
松炭を買いに街へとやってきた時だった
「よう清次郎!」
ふと見ると向こうから、清次郎と同じくらいの年恰好の男がやってきた
「…弥助か」
「なんだなんだ?かつて同じ師匠の下、技を競い合った仲だと言うのにつれない奴だな?」
「・・・何か用か?」
「いいや。向こうからお前が見えたんでちっと声掛けようと思っただけだ」
「・・・そうか」
「今日は街に何しに来たんだ?」
「…お前には関係ない」
「ふん。大方、松炭でも買いに来たのだろう?」
「・・・」
「お前、いつまで普通の花火を作っているんだ?」
「・・・」
「そんな、いつまで経っても進歩のない花火なんてやめちまえよ!」
「っ!」
「花火屋の仕事は、花火を見てくださる人々を愉しませることだろう?なのにお前の花火と来たら、単色で吹き上げ、打ち上げで大輪だけだろう?そんなんじゃ、人を愉しませるなんて言えねぇぞ?」
どこか憐れむような顔をする弥助…
「うるさい!!お前に何が判る!技を磨くのが嫌になって魔法花火に手を出した奴が!!」
「修行がいやになったんじゃない!俺は進歩を目指しただけだ!そんな先のないモンにいつまでもしがみ付いてるのが嫌なだけだ!だが、魔法花火には、夢がある!希望がある!未来がある!!俺達、花火師が望んで止まなかったものがある!赤銅色の単色しか出ない花火に華があるか?見栄えがあるか?吹き上げだけで人々が喜ぶか?打ち上げて大輪咲かすだけのモノで愉しめるのか?いいや。俺はそうは思わない。世に神通力とか魔法といったものがある。それらを使った花火を人々は諸手を上げて愉しんでいる姿がある!だからこそ、俺はやめたんだ!」
色鮮やかな魔法花火…それが上がると人々は喝采を上げた。それに何度も苦渋を飲まされていたのが頭を過ぎる
「お前はいままでの努力も師匠から受け継いだものもすべて無駄だったと言いたいのかよ!」
「無駄とまでは言わない。受け継いだモノがあったからこそ魔法花火に賭けようと思っただけだ!」
「職人の腕ではなく、術を込める術者の腕が持て囃されるようなもの花火と言えるのか?」
「少なくとも、今のお前の花火よりも人々は喜んでくれると思うが?」
「っ!!」
「お前も早く魔法花火に変えろよ。昔のよしみで今なら、お前に一人いい術者を紹介できるぞ?」
「そんなん!」
「まぁ聞け!彼女はな、お前が幼女好きになってくれればすぐにでも力を貸すといっているんだ。腕のいい術者を紹介するとも言っているぞ?悪い話ではあるまい?」
「幼女?」
「ああ。俺の相棒として来てもらった奴…今は俺の嫁の話によるとな…幼女好きな奴を増やそうとしてるとかで…?各方面に渡って布教してるらしいんだ。俺もなすっかりあのぺったんこなあいつに夢中になっちまったんだが・・・。とにかく、力を借りたいとか、もしくは幼女好きならば快く力を貸すそうだぜ?」
「断る!」
「まぁ、そう結論を急くな。よく考えることだ。夏の納涼祭までまだ時がある。よく考えることだぜ?」
そういうとかつての仲間は去っていった…

弥助とは、かつて同じ師匠の元で修行した仲であった
長い年月に渡る下積みからやっと尺玉の中に入れる“星”作りや玉作りをやらせてもらえたときはお互い本当
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