とある寺の奥参堂にて・・・
一人の侍が木刀を振るっていた
「とぉ!」
ブゥゥゥン!!
「ハァ!!」
ブン!!
「・・・ふぅ」
一通り体を動かした侍・・・
汗を拭うと、静かに言った
「・・・さて、参ろうか。・・・どのような者がいるのか・・・楽しみだ・・・」
その侍は身なりを整え、立てかけていた刀を手にすると腰にした
そして、いずこかへと歩んでいった・・・
とある街、一棟の貧乏長屋、その一角
そこには、田崎 正之助という浪人がいた
見た目、若々しく齢20か30かといったところだった
どこかに仕官するでもなく、淡々と気ままにその日を過ごしているそんな生活を送っていた
「おいちゃーん!出来てるー?」
正之助が傘張りの内職をしているときであった。近所の子供達が2、3人が訪ねてきた
「うむ。これであろ?」
「わぁ!ありがとう!!おいちゃん」
作っておいた竹とんぼを渡してやるとうれしそうに外へ駆けていく
「やはり、子供は無邪気でよい。私もいつまでこの気ままな暮らしを続けていけるものか・・・。さて、これを済ませてしまおう」
傘の骨に糊を付け紙を貼っていく
そんな時・・・
「ごめんくださいまし」
と、誰かが来たようであった
「開いておる。入ってくれ」
「失礼します」
訪ねて来たのは、この長屋の者達がいつも世話になっている万屋の仁左衛門という男であった
万屋(よろずや)とは、俗にいう何でも屋。生活に必要ないろいろな物を売っていたり、各方面にとても顔で、人足の口入(職業斡旋)などや、他にも長屋などの貸し出し、今で言う不動産屋などもやっていた
「正之助様。どうですか?傘作りは?」
「うむ。大分板についてきたようだ」
「さようでございますか」
「一昨日頼まれた分はまだ出来てはおらぬが・・・」
「いえいえ。今日伺ったのは、傘を取りに来たのではありませぬよ」
「ならば・・・何を?」
万屋の仁左衛門はいつも決まって、商いの話をする時は、首に大陸から渡来したという眼鏡というものを垂らしてやってくる
今日も、その眼鏡を首から垂らしてやってきた
「さようでございますな。以前お聞きしましたが・・・剣の腕は如何ほどでございましたかな?」
「ふむ。剣の腕前か。比べる者が無い故にな・・・どうと言われても・・・」
「そこそこ・・・ということですかな?」
「・・・うむ。へっぴりの木偶ということも考えうるぞ?」
「いえいえ。あなた様のいつもなにごともドンと構えた立ち居振る舞いを見れば木偶ということはありますまい」
「買いかぶりすぎだ」
「そんなあなた様に、用心棒を頼みたいのでございますよ」
「用心棒?」
「はい。この度、あるお店でお城へ献上する織物があるのでございますが、それの用心棒をお願いしたいのです」
「・・・織物にか?」
「はい。とくにこれまで献上の品が狙われたことはございません。ですが、そのお店でいつも用心棒をなさっている方がその日に限っては、ついていけぬのでございます。ですから、手前の一番信用できるお人に用心棒をしていただきたいと先方よりご依頼がありましてな。正之助様が適任かと・・・」
「ふむ。・・・あいわかった。では、その依頼主とは?」
「はい。呉服商 藍屋と申します」
「呉服・・・藍屋」
「藍屋から城まで金子は、2両。一日、お店から城までの往復だけでこの額はよい値かと・・・」
「よかろう。で、その日取りはいつなのだ?」
「はい。明日、辰の刻(朝八時頃)には来てほしいと」
「明日の辰の刻・・・あいわかった。では、藍屋から城までの往復と言うことで」
「はい。では、私はこれで・・・」
と、仁左衛門は帰っていった
翌朝・・・辰の刻
藍屋につくと、藍屋主人、葵田又右衛門が支度に追われていた
「みなさん。今日はしっかりお願いしますね」
そう声を掛けているのが聞こえた
店の前には、いくつもの車が置かれ、そこに漆塗りの箪笥がいくつも乗せられていた
それに掲げられた木札には、これが城へと献上される品であるとのことが記されている
「ごめん。すまぬが藍屋のご主人であろうか?」
「はい。手前、葵田又右衛門と申します。お手前様は?」
「私は、田崎 正之助と申す者。万屋の仁左衛門殿から依頼を受けた者でござるが」
「おお、田崎様。お待ちしておりました。今日はよろしくおねがいいたします」
「世の中、なにがあるか分からぬもの。今まで襲われなかったからと今日は襲われぬ保障はないもの。なので気合を入れていく所存」
「さようでございますな。では、田崎様に付き添っていただきたいのはこれらの品々です。なにとぞ、よろしくお頼み申します」
「うむ。出来うる限り尽くそう」
準備が出来るとすぐに藍屋一行は出立した
5つほどの車の横で腕組みをしながら周囲を警戒する
城へは、1刻ほどでついてしまった
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