壺に浪漫を

埃っぽい臭い
カビくさい臭い
少しすえたような臭い
新しいモノの臭い
古臭くなったモノの臭い

古くなり臭いもなくなったのにどことなくにおいが染み付いているような気がするモノ
誰かのモノになることなくそこに来てしまったモノ
誰かに愛され続けたとわかるモノ

新旧ともどもごちゃ混ぜになった不思議な空間

骨董屋

私はそんな不思議空間を見て回るのが趣味である
琴線に触れるものがあれば
新しかろうが、古かろうが
一品物だろうが、大量生産物だろうが
手に取り、眺めて、お買い上げ
財布の中身が気になるが、お買い上げに至るのは本当に少ないことだから使う時は、ぱーーーっと使うことにしている

最近、というかかなり前からなのだが・・・
お宝鑑定野郎ズとかいうTV番組などが増えたおかげで
価値とかいうのに目がくらんでいる奴が多すぎる
あれはいただけない
『思い出の品なんですけど・・・いくらぐらいなのか知りたくて・・・』
思い出の品なら、それだけで十分だろうが!!なんで欲出して付加価値を見出そうとするか!!
人の欲に果てはないとは言うものの仕方がないことなのかもしれない

TV番組を見ると
金額が高ければ、すごいと思うと同時に妬みを・・・
買った金額より下がれば、残念と思うと同時に嘲りを・・・
せっかく古代ロマンを知るいい機会なのに
なにか自分の黒い一面を見ているようで、そういう番組は見なくなってしまった
だから、転売目的で骨董屋やリサイクルセンターを覗いている奴見ると、虫唾が走る

それはさておき・・・

今日も、一軒新しい所を見つけておいた
一見、普通の家
でも、よくよく見ると“骨董屋  骨董あります”の文字
いつもここは通勤で通るものの見過ごしていた

少々の期待と緊張を持って扉を開く
カラーン
扉に据え付けられた鈴が来客を告げる
あの独特な香りが鼻腔をくすぐる
店主は見当たらない
正面には

“元気 ハツラツ オロ○ミンC”の看板
昔なつかしいあの黒帽子にズレタ黒ぶちめがねのおっさんが出迎えてくれた

・・・ここには何かがある
そんな直感がドキドキ感を増大させる

「いらっしゃい・・・」

不意に物陰から主人と思われるオヤジが出てきた
年のころは60以上、白髪が目立つ

「ご新規さん?でも骨董が好きなんだね?顔見ればわかるよ。どんなお宝に会えるのかわくわくした顔浮かべてる。ゆっくり見て行って。ここのモノたちはみんな新しい主人を待っているのだから」
そう言うと、彼は私が見るもの、手に取るものすべてに解説をはじめた
はじめはある程度受け答えをしていたがだんだん煩わしくなる・・・

ひとしきり店内のものを説明し終わると気分が済んだのかオヤジはカウンターに戻っていった
・・・古いもののロマンを語るのはいいがゆっくり落ち着いて物色できないだろう・・・

また、一から一つ一つ見回っていくと、古びた家具の向こうに木箱に入ったつぼを見つけた
「・・・!(・・・なんだか、感じ入るモノがある)」
第六感なのか?これはと思うものを見つけたときの感覚だ
期待に胸を膨らまして箱に手を伸ばすとそこには・・・
青磁のつぼがあった
青磁とは、青緑から淡い青色の釉の掛かった焼き物。古くは紀元前14世紀頃の中国で造られ始めたらしく、宋代とか高麗青磁とかあるらしい。近代だとクロムを用いたものが多く出回っているらしいが所詮素人。古いんだか新しいものなんだかわからないが、とにかく気に入った

カウンターにつぼを持っていくと、主人はしきりに頭を傾ける
「おかしいなこんなつぼ、うちにあったかな?」

「あの、おいくらなんでしょうか・・・」

「引き取ったものは大体覚えているんだけどな・・・まあ、そのつぼに呼ばれたのかもね・・・おにいさんは」

「つぼに呼ばれた?」

「こんな商売やってるとね・・・時々、ものに呼ばれるんだよ。もっともっと使ってもらいたいとか、そういう思い持つモノがいろいろね。それがどんどん増えて店開くまでになったのさ」

そういってうれしそうに笑う主人

「3000円でいいや。呼ばれたんだ大事に使ってやってな」


さっそく、家に帰るとつぼを眺めてみることにした
大事に新聞で包まれたそれは、ほどよい大きさで
2リットルのペットボトルくらいの大きさ
この大きさならば手入れするのもよさそうだ


そうして、新しいつぼが我が家に来た
鑑賞棚にしまってぼーっと眺めるのが好きなのだが、ある日つぼの陰に人の影を見るようになった。そして、後で棚を確認すると中のつぼがぴかぴかになっていることに気が付いた
手入れといっても私はただ布で拭くだけだが、なんだかこれは光沢が違うように思える・・・
手入れをしている何者かを見てみたい!
だんだんと私はそう思うようになっていった

ある日・・・
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