しろとつち

晴れ渡り、澄み切った空
雅之進とアメリアは相変わらずに山中を歩いていた
木々の向こうには、海が見える

「アメリア。見ろ、あの海の向こうに微かに見えるのが大陸だ」
霞がかった所を指差して言った
「あと少しなのですね?」
「ああ。この山を越え、もう一つの島に渡れば大陸方面へ貿易をしている港が在る」
「この旅の行方はどうなることかと思いましたがやっとここまで来れたのですね。思えばいろいろなことがありました」
「ああ。だがまだ旅の半ばぞ?振り返るのは後だ。百里の道のりも九十九里を以って半ばとせよと、彼の権現様も仰っておる。ますます気を引き締めなくてはならぬ」
「はい。・・・あら?」
彼らの目の前をひらひらと落ちる花びらがあった
どこから来たのか目を彷徨わせて見ると向こうに見事に花を咲かせる木が見えた
「・・・きれい。なんの花でしょう?」
「八重さくら・・・だな」
「ヤエサクラ・・・多くの花びらを持ちふっくらとしている、なんて華やかな」
しばし目を奪われる
「・・・(幼き頃、近くの神社で母上や父上、姉上とよく花見をした・・・。その時のことを今でも思い出す・・・。もはや・・・もはや再びあの地へ行くこともあるまい・・・)」
強烈に故郷のことを思い出してしまったが、すぐに振り払った
「如何なさいました?」
「いやなんでもない。このさくらより俺は山桜の方が好きだがな」
「ヤマザクラ・・・」
「このサクラは華やかだが、山桜は5枚の花びらを持ちなんとも可憐な花をつける。そして、いつまでも咲き誇っている。美しさの中に強さがあるのだ。丁度、そなたの様にな」
「・・・」
はじめは気が付かなかったようだが、見る見るうちに白磁のような顔が赤くなっていく。耳の先が桃色に染まっていくのを見て、やはりかわいいなと思った
「もう・・・!お戯れを!!」
彼女は怒ったように後ろを向いてしまった
「・・・アメリア。そのように恥ずかしがっているお前も好きだぞ?もっと見せてくれぬか?」
後から抱きしめ、その長く桃色に染まった長い耳の耳たぶを口に含む
「ま、雅之進!こんなところで!!」
ますます狼狽しているようだ。めずらしい。それを聞いて調子に乗った
甲冑の間に手をもぐりこませて、その豊満な胸を責めようとした・・・

ガサガサガサ!!

近くの茂みに何かの気配があった
「雅之進!離れて!」
「ちっ!」

茂みの中からはヘビがこちらを窺っている
「珍しい。白ヘビぞ」
抜刀しかけた刀を鞘に収めながら、雅之進は近づいた
「雅之進!危険です」
近くまで行って観察するように見つめると、茂みからはもう二三のヘビが出て来た
「ほう。こんなにも白ヘビを拝めるとは、縁起がよい。一つ拝んで行こう」
アメリアは何かを感じ取って未だに背の剣に手を掛けている
「・・・二人無事に大陸に渡れますように、願うしだい・・・」

シャーーー

「雅之進!危険です!」
「アメリア。大事ない。それに何かあっても俺にはこのヘビは切れんな」
「何故!」
「この地には古より蛇信仰というものがある。古来より畏怖と敬意を人々は持っていた。蛇に神性を感じたのだろう
故、おそらくこの白蛇はここら辺りのご本尊やもしれぬ。そのようなものを切るなどという事は、今の俺にはできぬな」
「・・・そこまで言うのでしたら・・・」
納得しかねるのかやはり、どこか警戒しているようだ
「同心だった頃の俺だったら、異教ということで切っていたやも知れぬが、あの雪山で村長殿に諭された俺にはもはや些細なこと・・・。さあ、旅を続けようぞ?」
蛇に一礼をし、その場を立ち去る

「雅之進。貴方はどうも軽薄だ。ご自分のことをどう思っているのですか!何かが起こってしまったらどうするのです!」
「すまぬ」
「貴方に何かあったら・・・あったら、私が困ります」
悲しそうにうつむく
「そなたの言うとおり軽薄であった。すまぬ」
真剣に目を見つめて謝った。が、ぷいとそっぽを向かれた
そんなアメリアの頬に口づけをする

「それにしても、先ほどの顔を赤く染めたそなたは、実に愛らしかったぞ?」
「そのようなこと・・・!知りませぬ!!」
思い出したのか頬を染め、歩を早める彼女
「恥ずかしがることはないだろう?」

早足で歩く彼女を微笑ましく追う。まったく我妻ながらかわいらしいものだ



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睦まじく去っていく男女を眺める気配が一つあった
それは先ほど白蛇がいた付近・・・

今の男女は違う
あれは探している者ではない
あの憎き盗賊ども
貧しき中でも少しずつ蓄えを出し合い私にと供物や宝物を供えてくれた愛しき人々、彼らからの大切な贈り物
それを空き巣同然で奪っていった者ども
私を神と崇め
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