ここは開けた平野が続き川を下ればすぐに海という豊かな里
見上げれば雲ひとつない真っ青な空がどこまでも広がっている
どうやらここらをお治めなさっている神様も今日のこの日を歓迎なさっているらしい
黄金色に輝く田、その近くにある社、烏帽子に白装束の人など
多くの人々が集いはじめていて、その手には今年採れた多くの幸が握られている
そんなにぎやかな人の群れの中から忙しく動き回る二人の男達がいた
「今日は豊穣祭だ!気を抜くんじゃねえぞ?文治!!」
「がってん承知ですぁ!だんな!」
文治と呼ばれたのはこの里で岡引をしている。そしてもう一人は菊池雅之進、この里で同心をしている
田が黄金色に色づき、夏もいよいよ終わりに近づこうというこのごろ、年に一度の豊穣祭(収穫祭)が開かれる
最初に収穫された稲や山の幸、海の幸んなどが社に捧げられる
そうして、里の皆で馬鹿騒ぎそんな一大イベントでもあった
そんな里すべてを上げての祭りにいざこざが起きないという道理はなく
迷子の誘導、酒を飲んで気を大きくした者たちの喧嘩など役人の仕事は多い
「だんなぁ!さっきの迷子の親ぁ見つかりました!」
「そうか!よかったなぁ嬢ちゃん!かかさまと、ととさまが見つかったそうだぞ?」
「ありがとうおじちゃん」
「よし!文治!嬢ちゃんを頼む!」
・・・
「お役人さま!あっちで海の衆が酒飲んで暴れております」
「よし。わかった!おまえはここに岡引が来るから、そいつにも事の次第を伝えてくれ」
「はい!わかりました!」
とこのようにてんてこ舞いな有様だった
と、そんな折・・・
「だんな!・・・ちょっと・・・こっちへ・・・」
「どうした?」
「へい。祭り目当てで来た旅のモンが、河口で妙なもん見つけちまって・・・」
「妙なもの?」
文治は辺りを見回して言った
「土左衛門でさぁ」
「なんだと!」
「用を足そうと葦の茂みに踏み入れて見つけちまったそうで・・・」
「わかった。まだこの話広まっていないだろうな」
「へい!旅のモンも祭りの日に嫌な話は持ち込みたくないと、あっしだけに話を持ち込んできたんで」
「よし分かった!とにかく、案内しろ!」
「へい!」
河口に着くと夫婦と思われる旅人が困惑した表情で待っていた
「土左衛門はどこだ?」
「はい。あそこでございます。うちの人が用を足そうと茂みに入ると悲鳴が上がりまして何事かと見ると人のような人形のような・・・」
と青ざめた表情で伝えた
「ん!分かった。文治!」
茂みの中には黒い塊のようなものがあった
十手を出して検分に入る
どうやらうつ伏せになっており、腹までが打ち上げられている。腹から上は未だ水の中だ
「文治!引き上げるぞ・・・」
「・・・へい」
やっとのことで引き上げたこの土左衛門・・・頭がなかった
魚にでも喰われたのかとも思ったが、首がなくあるはずのものが見えない。つまり中は空っぽだった
一番目を惹くのはその甲冑だ。鎧兜の類ではなく、どうやら南蛮製の西洋甲冑とか言うものみたいだ
腰には西洋の刀?剣が括りつけてあり刀に慣れた目には無骨に見える
手足は腐敗しておらず、作り物のようである
「文治!こいつはどうやらデク人形のようだ」
「デク人形?!よく出来ていやすね」
青ざめている二人を呼ぶ
「とんだ災難だったが、こいつは人形だ!」
「こ、これが人形・・・?」
「ああ、ここを見ろ!すでに貝が付いてやがる。貝が付くほどの長い間、腐敗もしていねぇ。こいつは人じゃねぇ人形だ!」
「それでは、気にする必要はないと?」
「ああ、そうだ。前に都のある唐物屋で似たようなものを見たことがある。蜜蝋で作り、あとで色を付ける。医学目的や見世物にするための人形をな」
「なんだそうだったのですか・・・てっきり土左衛門かと・・・」
「すまんな。まぁ豊穣祭、楽しんで行ってくれや」
「はい。お役人様もご苦労様です」
そう言って旅の者は去って行った
「これが人形ですかい・・・本当によく出来ている」
「ああ。唐物屋の主人が、向こうの国では本当の人の体を切る訳にも行かないからこういうもので標本を作ると前にいっていたな。こいつは、この前の台風の時に波に乗って着ちまったんだろうよ」
「だんな。これどうするんですかい?」
「番屋に持ち込むわけにも行くめぇ。人形とはいえ、いくらなんでも祭りの最中に人目に晒していいモンじゃねえ。文治、ムシロで巻いて俺んちの納屋に転がしておけ」
「へい!」
そんなハプニングもあったが祭りはつつがなく終わった
祭りの活気もおさまり、また普段の生活が戻っていった
そんなある日・・・
「うあああああひゃぁぁぁぁぁぁ!!!だんなっ!だんなっ!!」
けたたましく悲鳴を上げながら文治が雅之進のところへ駆けて来た
「やかましい!文治!なにごとだ!!」
「ぜーはー・・・ぜ
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